碧に染まって

□資格
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キルアくんが産まれてから暫く経った今日……どれくらいかというとハイハイが出来るくらい……シルバさんに呼ばれた。

一瞬時間によって忘れかけていたが、恐らく例の話だ。てっきり流れてしまったとも思っていたのだが。

一体なんだろうか、と予想をしながら扉の前で一呼吸してノックする。
返事を聞き、中へ入る。

『おはようございます、シルバさん』
「ああ」
『それでお話、とは』
「お前、ハンターを知ってるか」
『ハンター?』

ハンター……ハンター…。狩人、狩猟家、だろうか。何かを追い求める者、という意味もあるけど。

「ハンターってのは職業だ。一般には財宝、賞金首、美食、遺跡、といった類いを追求するやつのことをそう言う」
『なるほど』

狩猟家、というよりかは何かを追い求める者、という意味のが近いな。……こちらで言う考古学者や美食家といった所だろうか。それの総称が、ハンター…。一般には、という言葉が気になるけれど。

「お前にはそのハンターの資格を取ってもらう」
『え、資格…ですか』

資格なんてあるのか。というか、取ってもらう…て。

『…分かり、ました。ですが、私でも取れるような資格なんですか?…私には食の知識も遺跡の類いもわかりませんし…』

勿論。取れと言われたからには勉強するのだが…にしても、食は難しいな。もう数年食事をしていないわけだし。

歴史も……歴史を学ぶ前にこの世界のことを知らなければならないし。ハンターという職業さえ知らなかったくらいだ。

…勿論。取れと言われたからには勉強するのだが。

「問題ない。必要なのはライセンスだからな。ハンターとして振る舞う必要はない」
『はぁ…』

なんとも言っていることが矛盾しているような……しかしシルバさんが無理難題を言うような人ではないため、私でも取れるのだろう。勉強しないで国家資格を取れ、とは言わないだろうから。

『……それで、どんなテストなんですか?流石に、このまま行って受かることは難しいでしょうから』
「いや、問題ない」
『も、問題ない…ですか』

その確固たる答えにこちらが戸惑ってしまう。…一体どんな試験だ。まさか実技だろうか。それなら勉強は必要ないけれど……宙返りとか言われたらどうしよう。精々側転ぐらいしかやったことはない。

「日付は明日。今年はここパドキアで開くらしい。場所の案内はゴトーにやらせる」
『………………明日』

…もはや驚きすぎて理解が追い付かない。
ハンターが何なのかもまだ明確ではないのに明日、その資格を取れと。それも勉強もしないで。……無理難題を言うこともないなんて、全くもって誤解だった。なんて無理難題を仰る。

「お前なら必ず受かる。落ちるとしたらよほど運が悪かったんだろう」
『……そこまで仰るなら…断る立場でもありませんし』

必ず受かる、なんて。そう言われてはこちらとしても何も言えない。シルバさんと私。この世界のことにおいて、どちらがより信頼できるかなんて明らかだ。

『………お話は以上で、?』
「それと」
『はい』
「…………」
『……………あの?』
「いや、大したことじゃない。話は終わりだ」
『は、はぁ……では失礼します』

シルバさんの態度は気になるが仕方ない。それよりも気を張るべきは明日だ。

……行く前に軽く調べた方がいいよな。そういうのはミルキが得意だ。頼んでみよう。

私は部屋を去った。











「……………」

言わないのが正解だったのか。そもそも言ったところで…というのもある。

それに、今に始まったことでもない。

だが。自身が今回の件に違和感を覚えているのも事実だった。

「………はぁ」

滅多につかないため息をつく。

彼女について調べさせているものから寄せられた資料には"何者かがノアを執拗に調べている"という文字。

それ自体は初めてではない。元々目を引く容姿だ。つい数ヵ月前にもイルミが一人捕まえて始末していた。

だが、引っ掛かるのは"ノア"を調べているということ。それも執拗に。それは、ノアという特定の人物を捜している様に見えた。

そして、その特定の人物がどうにも彼女だと思ってしまう。

根拠はない。だから言わなかった。
しかしこれは長年の勘なのか。

…彼女は今となってはゾルディック家に必要不可欠な存在だ。

仕事の腕は勿論だが、何より息子や執事たちからの信頼が厚い。キキョウもああは言ってるが、彼女と居るときは楽しそうに見える。

出来るならこのままゾルディック家に置いておきたい。

「………面倒なことにならなければいいが」

彼女は人を惹き付ける。
善くも悪くも。

それは思った以上に厄介なものだ。

シルバは訝しい顔で資料を睨んだ。

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