碧に染まって
□宝石のような人
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『……………………なかなかなぁ…』
一度全てのページを閉じ、眉間を押さえる。疲労感は全く無いのについ押さえてしまうのは癖なのか。
前傾姿勢だった体勢を後ろに戻し、腰を伸ばす。その際に周囲の景色が目にはいる。人が増えていた。時間を確認すると、私がここに来てから五時間は経っていた。
その五時間で得られたものは何もない。
スラム、廃材、教会、廃墟、ゴミ山、配給、もも肉、……様々な角度から検索をかけ調べるが、出てくるのは既に行ったことのある場所か、行くまでもない場所ばかり。
この世界ではインターネットのようなものを電脳ページという。使うためには専用の電話回線と登録ナンバーコードを購入しなければならないが、それはハンターライセンスで代用が出来た。…本当にハンターライセンスは便利だ。
それ以外はだいたい私の知るものと同じ。ただ、こちらでは"ググる"ではなく"めくる"というらしい。面白い表現だと思った。
もう一度検索バーにカーソルを合わせる。そして単語をいれようとして、止めた。……これじゃあ同じことの繰り返し。
常々思うが、情報が少なすぎた。
その少ない情報を組み合わせたって、出来る量も少ない。……あんなに地平線まで広がっている廃材の山。検索して一番に出てきてもいいものだ。それなのに出てこない。素直に"地平線まで広がる廃材"なんて検索してみても勿論出てこないのだった。
なら、と。思考を変えてヨークシンシティ付近のスラムを調べる。
私は教会のあるあの場所から念によって海に飛ばされ、ヒソカによって助けられた。それからヨークシンシティへと運ばれた。助けられてからヨークシンシティにつくまでは僅か数日。あの大きさの船の速さを考えて……逆算すると………大体この辺りで私は海から上げられた。
パソコンの画面に地図を表示し、カーソルで大体の位置を把握する。
私を海に飛ばした元凶の男がどれだけの念の使い手だったのかはわからない。そもそも全体も把握していない。……でも、普通に考えるのならそう遠くへ瞬間移動は出来ない。
より大きな力を得るにはそれなりの代償がいる。それは念も同じ。より遠くへ飛ぶなら、膨大なオーラを消費しなければならない。
……私が飛ばされる前、男は息も絶え絶えだった…。記憶をひとつひとつ呼び起こしていく。……遠くへ飛べるのなら私に追い詰められる前に逃げているだろう。男は死にたくなかったのだから。なら、あのとき男は逃げられなかったのだ、飛べるほどのオーラがなくて。
ゼノさんが教えてくれた念関連の中に、死後の念というものがある。
それは死ぬ前の後悔や、怒り…といった強い感情が念となって現れるというもの。死後の念は術者にもよるがとても強力なものらしい。火事場の馬鹿力、というのがいいか。
ただ、それは術者によるのだ。いくら死の淵の感情が強くても、念をうまく扱えるか扱えないか……つまり強い念能力者かどうかで変わってくる。
あの男の死後の念とゼノさんの死後の念では、例え男の方の感情が勝っていても、比べ物にならないくらいゼノさんの死後の念の方が脅威なのだ。
もし死後の念が感情だけに左右されるのであれば、とっくに死後の念の被害は多発している筈だ。…世の中には激情の中、命を落とす人がたくさんいるのだから。
……まとめると、男はそこまで強い念能力者ではなかった。そもそも念をあまり心得ていない私にやられたのだし…。飛べる距離もほんの数メートルだったんだろう。……私の周りを瞬間移動で飛び回っていたのは挑発ではなく、あれは限界距離だったから。
なら、死後の念によって飛躍的にオーラが増えたとしてもこの世界の裏側にまでは飛べないだろう。
『………』
私が何日間…何十日間海を漂流していたのかは分からないが……目が覚めたとき自分の身に付けていた服はそれほど腐敗していなかったことを考えると……途方もなく長い時間ではないし、恐らく一月も経ってはいない。
なら飛ばされた地点はこの辺り。……ここから近い陸地は……その陸地にあるスラムは………。
推測に情報を追加し、選択し、合わせる。するといくつか該当地が上がった。
推測に推測を重ねた確実性の欠片もないものだが、やみくもに調べたものよりかはまだましだ。
ここに行ってみよう。
そうと決まればさっそく飛行船のチケットを探す。………、携帯が震えた。
取り出して確認する。メール。それもイルミから。内容は今から家に来て、というもの。引っ越し早々…仕事だろうか……仕事だとしたらチケットを頼むのは早計だな。
ページを閉じ、パソコンをシャットダウンする。
行く場所が決まっただけでも良い。
"分かった。すぐに行くね"
打ち込んで返信して、私は席を立った。