碧に染まって
□サプライズ
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その一室に入れば少し空気が変わる。
同時に集まる複数の視線。
「団長!」
「何してたんだ?朝帰りなんて」
ウボォーギンが一番に口を開き、その後ノブナガが声をかけてくる。その問には特に答えず、定位置となりつつある横に倒れた棚の上に座った。
「………」
5人か。
「後の3人は」
「もうすぐ来るはずだけど」
パクノダが呟いたと同時に足音が部屋に響く。見れば残りの3人が居た。
「ごめん団長。遅れた」
「いや、オレも今来たところだ」
「…わざわざこのメンバーで呼び出して…今度は何の仕事?」
シャルナークは笑顔で謝罪すると部屋のソファーに腰を下ろした。マチは早くも察したらしい。フランクリンは特に何も言わず、部屋の奥の方に歩いていった。
……これで8人。全員揃ったな。
「で、今回は何の用事なの?…マチの言う通りわざわざあたしたちを集めたみたいだけど」
「つか、最近盗ったばっかだろ」
「そうね」
みんな口々に言う。それもそうだ。つい一週間前に大きな盗みをしたばかりなんだから。
「団長、今日は下ろしてるのか?」
「ああ。少しな」
フランクリンが言うのは髪のことだろう。彼女と会っていたから今日は上げていなかった。
「団長…呼び出しといてオレらのこと無視してない?」
シャルナークが頬をひきつらせながら聞いてくる。……そろそろか。オレは自然と開いていた本を閉じ、自分が座っている棚に置く。
それを合図として、影が動いた。
その影は急に現れた。柱から、机から、天井から、ではなく、すっと初めからそこに居たかのように自然と目の前にたたずんでいた。………オレ自身、知っていた筈なのに驚いた。
オレが驚いたんだから周りの奴等が驚かない訳がない。オレに向いていた視線は早々と外れ、影へと向く。
……影は布を被っていた。そのせいで顔は伺えない。咄嗟に用意したであろう物にしては様になっていた。
「…誰だ」
ノブナガの声で一斉に警戒体制に入る。それぞれがそれぞれの武器に手を触れ、いつでも戦闘に入れる状態だった。
プランは全て任せてある。だからなにも問題はない。
『…制限時間は10分といこうか』
「!」
影は呟くと同時に、まず真正面に居たフェイタンに突っ込んでいく。
金属同士がぶつかり合い弾かれる音。影の手にはナイフが握られていた。…ナイフなんて持ってたのか。昨夜の時点では見つからなかった。
キン、という音が2、3回続いた後地鳴りのような音が響く。同時に地響き。ウボォーギンが影へ拳を振り下ろし、地面を殴った。影は容易く避け、その避けた着地点を狙うようにマチが足を振り払う。それもまた体をひねり軽く避けていた。
…事のあらましを知らないあいつらは"侵入者"として影を対処している。だから、手を抜いている…なんてことはない。
…予想外。彼女が強いのは知っている。けれどそれはあくまで一般人よりも、という枠でしかなかった。だがこの動き……明らかに習っている動きだった。独学ではない。相手の動きを予測し、対処し、隙を付く…。
それも、実践を相当積んでいる動き………かつて見た彼女の戦闘とはかけ離れていた。遊びの域は当に越えている。
フィンクスの拳は布をかするだけで、本体に当たる気がしない。
「っオイ、フェイタン!なにぼーっとしてんだ!」
始めに影と打ち合っていた筈のフェイタンが全く動きを止めていた。それに気づいたフィンクスが叫ぶ。
「………な、で」
……フェイタンは気づいたらしいな。
比較的近い距離で交えていたせいかもしれない。…時間も丁度良い。
「そこまで」
鋭く、咎めるように声を張れば全員の動きが止まる。
止まって数秒してから影がこちらに歩いてくる。
「!な、おいっ」
「……団長。これ、どういうこと」
流石に何か可笑しいと気づいたのか、全員の視線が疑心に変わる。ただフェイタンだけは動揺だった。
「…………なんで、いるね」
フェイタンが呟く。…その瞳は揺らいでいた。普段の彼からは想像も出来ないような悲観的な表情だった。
「あいつ、しってんのか?」
「っ知てるもなにも…!」
フィンクスの問いにフェイタンは食って掛かるように答え、そして口を閉じる。
「………団長」
「ああ。フェイタンの言うとおりオレたちは"彼女"を知っている」
「…彼女?」
影はオレの前まで来て、そして振り替えって隣に並んだ。
それから顔にかかっている布に手をかける。
『……久しぶりだったからてっきり負けるかと思ったけど…』
_!
ぱさ、と布が落ちた。
影は輪郭を露にする。ふわりと金色が舞って、静かに彼女の線を撫でた。
同時に、仲間の表情が面白い程に変わっていく。
『これは私の勝ちかな』
ノアは嬉しそうに懐かしそうに目を細めていた。
「………、……ノア…」
誰かが言った。
『やぁ、みんな。久しぶり』
ノアはにこやかに答えた。