碧に染まって
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_やぁ、みんな。久しぶり。
驚かせるためにあえて神妙ではなく、軽やかに言った。
………視線が、痛い。先程までの敵視ではなくなったけど、それでもどうも……こう、じっと見られるのはなんとも居心地が良くない。
…というか、誰も言葉を発さないのだけど。
『………少年』
「なに?」
『もしかして…私滑った?』
「っはは、そんなことないよ。みんな驚いてるだけ」
『そ、う…』
少年から目線を外し、目の前の驚いている彼らを見る。
8人…全員初めてみる顔だ。
でも、一人一人見れば…どこか懐かしいものがある。
まず分かりやすいのは…私が一番最初に"ちょっかい"を出した黒い塊…あれはフェイタンだろう。流石に大きくなったが、それでもそのサイズ感は変わらない。…本人に言ったら怒るだろうか。想像して笑みが漏れる。
それから…目立つピンク色の髪…マチ、なんだろう。すっかり落ち着いた女性になっていた。でも、その可愛らしい顔立ちは変わっていない。
だとするならもう一人のスーツの女性は…パクノダ。…大人の女性だ。独特な色気を感じる。マチとはまた違った意味合いで落ち着いていた。
それから…大柄な男性は、フランクリンとウボォーギン。…雰囲気的に白い肌の方がフランクリンで褐色な健康肌の方がウボー。ウボォーギン…随分と大きくなったな…。2メートルは軽くありそうだった。というか、二人ともか。
お次は………!…あれ、着物だ。着崩したようにラフに着物を着ている男性。しかも髪型はちょんまげときた。ザ・侍だ。腰には刀もある。……ノブナガ、かな。落ち着いた雰囲気…というのもあるけれど、残り二人は金髪でそちらではないだろうから。
金髪…で男ならフィンクスだ。…フィンクスなのだけど…ジャージの方かな。というかこの世界にジャージってあるんだ。
最後の金髪の男性は…可愛らしい顔立ちだった。この点から見てもフィンクスではないだろう。……決してフィンクスを目付きが悪いなんて思ってはいない。決して。
『…………?』
8人…?
確かに…私の知る彼らは8人だ。けれどそれはクロロ少年を入れての人数。……今この場で少年を入れたら9人になってしまう。……彼らの新しい仲間、だろうか。
幻影旅団なんて組織を作っているんだ。新しい仲間がいても可笑しくはない。
「……お前らいつまで固まってるんだ」
長い硬直状態に痺れを切らしたのか、少し呆れた様にクロロ少年が言う。
その言葉で皆の肩がぴくり、と反応する。
「……っ……マジかよ!!」
「…嘘、だろ」
ウボォーギンが本当に驚愕した声で叫び、そのあとノブナガがポツリと言葉を溢す。
『嘘じゃない。……といっても証明する術も持ち合わせてないけど…』
「…ノア、…な、の」
消え入るような高めの声。…パクノダだ。私は彼女の方を向いてにっこりと微笑む。
『そうだよ。パク』
「っ!!」
『……、!』
パクノダが歩み寄ってきて体を引かれた。…温かいぬくもり。パクノダが私を抱き締めた。
「ノアっ…………!!」
悲痛な声。けれどどこか安堵のようなものも伝わってくる。……声だけでどれだけ彼女が…私について考え、悩んでくれたか分かる。
『………うん。私はノアだ』
…きつく、きつく抱き締められる。
私はパクノダの背中に手を回し、そっと撫でた。…パクノダも私を覚えてくれていた。ありがとうと、意味を込めてパクノダを撫でる。
…パクノダの方がはるかに身長が高い。時間の経過を改めて見せつけられた気がした。
『よしよし』
「ノア…」
パクノダを撫でていると横からか細い、けれど凛とした声が聞こえる。
一度パクノダから離れ彼女を見る。…揺れた瞳、不安げな顔。
『マチも、久しぶり』
「!!」
『忘れちゃった…かな』
私は自然と顔を歪めていた。…あれだけ親しみのタックルをされていたのに、忘れられたのだとしたら…仕方のないこととはいえ、悲しい。
「っ……忘れるわけ…ない…!」
マチは私の考えを振り払うようにしっかりと言い放った。
『そう。じゃあ、よかった』
…ほっとして、マチを引き寄せてその頭を撫でる。マチは唇をきゅっと結んで何かを耐えるようにうつむいていた。
『マチ』
私はマチの頬に触れて顔をあげさせる。……感傷的な…表情。
『…すっかり大人になった』
「っ…!!」
笑えばマチは目を見開いてそれからまた口を結んだ。
私はマチの頬から手を離し、振り替える。
『ウボォーギン。久しぶり』
「ああ!今までどこ行ってたんだよ!」
ウボォーギンは驚きながらもその表情には嬉しさが滲んでいた。…私も嬉しくなる。
「まさか急に…それもノアの方から来るとは思わなかったぜ」
『あー…私の方から、というわけでも無いんだけど…』
興奮している様子のウボォーギンには、私の呟きは聞こえていなさそうだった。
視線を横にスライドさせればちょんまげと目が合う。
『ノブナガ…であってるかな』
「……ああ」
『正直、すっかり変わってるから誰だか分からなかったよ』
ノブナガに近づいていく。…背は勿論ノブナガの方が大きい。
「………ノアは……変わらねぇな…」
『見た目はね。中身はちゃんと歳を重ねてるつもりだよ』
…みんな私より歳上なんだよな。あくまで見た目での年齢だが。
自分の姿が変わらないといまいち歳の感覚が狂っていく。
『フランクリンも。久しぶり』
「……ほんとに、ノアなんだな」
『そうだよ。フランクリンこそ本当にフランクリンだよね?』
「!…ああ…そうだな」
聞き返せばフランクリンは少し目を見開き、それから細めた。
また振り替えって視界を見る。…まっくろくろすけには恐ろしい勢いで目を反らされた。
…ならゆっくり反らした方にしよう。
『フィンクス。目を反らすなんて酷いなぁ。感動の再会なのに』
「……………」
『フィンクス?』
話しかけてもどことなく顔を反らされてしまう。……あれ、フィンクスだよね。あってるよね。間違ってたら恥ずかしすぎて地底人になりたいんだけど。いや、クロロ少年からの指摘はないからフィンクスであっているはずだ。
『……………』
それとも…怒っている、のだろうか。
急に居なくなったのは私だからな。…もしくは…長い時間の中でかつて築いた関係なんて、もう…なくなっているのかもしれない。
……なら、こんなに親しげに接して…鬱陶しいと思っているに違いない。
そのことに気づいて伸ばしかけた手を止める。
「…………」
『……………』
「……………あー…」
フィンクスが長いため息を吐いた。ぴくり、と指が震える。
「……勘違いしてるだろ」
『え』
気まずそうに罰が悪そうにフィンクスは言う。
「別に疎ましがってねーよ。…ただ…実感が……だって、いきなり」
私は止めていた手を進める。フィンクスの頬を静かに撫でた。フィンクスの目がこちらに向く。
『よかった…やっと見てくれた』
「!…、……ノア…」
『うん。久しぶり。…元気そうでよかった』
そう、微笑んでから私はフィンクスから一歩下がる。それから黒い物体に目を向ける。
『フェイタン』
「!………」
返事はない。それでも反応はしてくれた。……大丈夫。私のことは覚えている。
顔を反らすフェイタンに近づいていく。逃げられたりはしないか…。
そして正面から抱き締めた。
「!っ…な、にするね」
『よかった…フェイタンも私を覚えてる…』
「!!」
私を剥がそうとしたフェイタンの手がゆっくりと降りていく。それを感じて、どうしようもない気持ちになる。
…私は、恵まれているなぁ…。
ゆっくりとフェイタンを解放する。
『…フェイタン』
「……なにか」
『相変わらず小さいね』
「!っ…殺されたいのか」
『ううん!殺されたくない!』
睨まれてしまっても全くもって怖くない。…むしろ私の心は浮き足立っている。
『私を無視した仕返し』
「…、…………ち」
舌打ちも今の私にはプラスでしか無かった。……それに、フェイタンも本気で言っているわけじゃない。それが分かるからこそ、余計に心が、満たされる。
頭を撫でれば不機嫌な顔になったが手を払い除けられはしなかった。
そして、最後の一人。
『……君は…』
私が目を合わせると慌てたように目をさ迷わせる金髪の男性。……男性よりも青年と言った方が近いかもしれない。背は高いが、顔立ちが可愛らしい。
「…!…っ…え、あ、オレは…」
「シャルナークだ」
急に声が聞こえたと思ったらクロロ少年だ。少年は横倒しになっている棚に座ったままこちらを見ていた。
「ちょっ団長!オレ自分で言いたかったんだけど…」
『シャルナーク…くん?』
「!は、はいっ…そう、…です」
…彼らは私を知ってるからいいけれど、このシャルナークくんにとってはまだ理解出来ていないだろう。
急に襲ってきたと思ったら知り合い感満載になってるんだもんな…。動揺するのも無理はないだろう。
「ノアを見つけた仲間がそいつだ」
『え?』
私は驚いて少年を見る。
「ノアがいなくなったあの場にシャルナークも居たんだ。だから、ノアのことは知ってる」
そういうことなのか……なら、この動揺ぶりも違う風に取れる。
あの場にいたのなら……私の印象はあまり良くないだろう。なにせ人をバッタバッタ、ぐっさぐっさとしていたからな。怯え…られている様ではないみたいだが、戸惑いは感じる。
『そう………えと、ごめんね。怖がらせてしまったかな』
「!え!?」
『いや、その……あの場にいたのなら私に良い印象はないだろうから…』
弁解して、私は好い人です、なんて言うつもりはないが……少なくとも誰彼構わずに暴力的ではないとは伝えたい。
「い、いや!まさかっ!!だってあなたはオレの命の恩人だし!それに…っ」
『……それに?』
今度は私が聞き返す番だった。
「だ、からっ……えと、」
「シャルナークもノアを捜すのを手伝ってくれてたんだ。あの日からずっとな」
少年の声で振り替える。…シャルナークはまたどこか拗ねたような顔でクロロ少年を見ていた。
…そう、なんだ。
『……そっか……シャルナーク』
「!な、に…」
『ありがとう』
「!!」
私の知らないところで…いつの間にか思ってくれる人が増えているなんて…誰が想像出来ただろう。
私は彼を知らない。…けれど彼は私を捜していてくれたなんて。
少年はずっと…と言った。嘘ではない。
『これからよろしくね』
私が手を差し出せばおずおずと握り返される。…その仕草に頬が緩んだ。