碧に染まって
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クロロ少年の隣に戻って改めて彼らを見る。
…………ほんと……成長したなぁ。
そう感慨深くなってしまうのも無理ないだろう。……私ももういい歳なわけだし。なにより…本当にみんな成長した。身体的にも、精神的にも。
みんなはまだ整理がうまく出来ていないのか、呆然としていた。…私自身まだ夢見心地だ。彼らの気持ちはよく分かる。
…でも折角会えたのだから、出来るなら笑顔が見たい。
『……クロロ少年』
「なに」
『トランプってあるかな?』
その一言だけで察したらしい。
少年は頬を緩めて"あるよ"と言った。
この部屋は広い。むしろ部屋…というより空間といった方がしっくりくるくらいだ。
その広い空間の中には家具が散らばっている。…比喩ではなく本当に散らばっていた。さっきクロロ少年が座っていたのも棚だったし。…それもどの家具も比較的年期が入っているようだ。
その中で中心的に置かれているのはテーブル、それを囲むようなソファー。
『14、15、16…っと。私の勝ちかな』
真剣衰弱を終え、枚数を報告し合う。私が最後に言い、それも今まで出た中で一番大きい数字だったため"また"私の勝ちらしい。
『よーし。じゃあ次も…』
「……まだやんのか?」
『だって君たちから一つも提案が無いからね。私が勝てるルールで遊び続けるのは必然だろう』
言えば数人の表情がむっとしたものになる。…その変化に静かに嬉しくなる。やっと反応してくれるようになったか。
ソファーに座り、トランプ(真剣衰弱)を半ば無理矢理に始めてもう何回戦目だろうか。
やっと手応えを感じた。流石にここまで真剣衰弱(それも全て私の圧勝)を続ければ文句も出てくるだろう。
…主に男子諸君の眉間に皺が寄っていた。クロロ少年は呆れた様に私を見ていたけど。そのお陰で張り詰めていた空気も幾分か和らぐ。
「……ノア」
『なに?パクノダ』
空気が変わったことでタイミングを見つけたのか、パクノダが聞いてくる。
「さっきシャルナークがノアを見つけたとか言ってたけど…それってどういうことなの」
『ああ。それはね…』
と説明しようとしてそう言えば私もよく知らないことに気づく。…仲間が私を見つけた…とは言っていたけれど実際に私が会ったのは少年だ。…考えられるのはシャルナークは私が少年と会うより前に私を見つけた。そして、少年に伝えた。で、少年は私を見つけた。
「こないだの仕事で、外部と連絡を取った形跡があったでしょ」
私の思考をシャルナークが遮る。
仕事………そうだよ。彼らはもう大人。仕事をする立場である。まともに生活していくならお金が必要だからな…。…一体何の仕事をしているんだろう。このシャルナークの言葉だけでは職種は特定出来ない。
「ええ」
「その調査中に見つけたんだよ。それで団長に伝えて…」
「じゃあ、シャルナークは前から知ってたってことかい?」
シャルナークの言葉に被さるようにマチが言う。…その表情はどこか……怒っている、ように見えた。シャルナークも顔をひきつらせる。
「…どうして言わなかったんだ」
「!いや、…だって団長から口止めされてたし」
「団長…」
マチが問い詰めるように言い、それを宥めるようにシャルナークが返す。それから、一連の会話を聞いたノブナガが少年へ疑いを向ける。
…団長……団長ね…。ここに来てから大分聞いたが違和感だった。私は彼らが少年を"クロロ"と呼んでいた記憶しかないからな。
「驚かせたかったんだ。それに、ノアも同意した」
『!、え…そこで私に振るかな』
確かに同意はしたけれど。…嫌に笑顔な少年にぴくりと頬がひきつる。私を共犯者にして自分への叱咤を半分こにする気だな。
「つか、そんなことより腹へったぜ」
ぱっとトランプが舞う。ウボーが、持っていたカードを乱雑にテーブルへ放ったからだ。…流れが変わったことにほっと息をつく。…て、どうして私がほっとしているんだ。
「そういやもう昼か」
「何か買ってくる」
「あ、ならオレも行くよ」
フィンクスが言う通り携帯の画面で確認するともうお昼の時間帯だった。
フランクリンが立ち上がりそれにシャルナークが続いていく。シャルナークはやけに嬉しそうだった。…この場から逃れられると思ったのかもしれない。
『私も行こうか?』
「いや…いい。何か欲しいものはあるか」
『そう?……じゃあ甘いものがいいかな』
何もいらない、と言おうとして止めた。…これくらいは甘えてもいいだろう。久しぶりの再会記念だ。
「わかった」
フランクリンは私の返答に頷くと背中を向けて部屋から去っていく。シャルナークも後を追った。
「…ノア、食べるようになったのかい?」
二人が完全に去った後、マチが聞いてくる。
『えっと…食事の必要は変わらず無いよ。でも、折角だから頂こうと思って』
例え味がしなくとも。買ってくれたものは嬉しい。お腹を満たすことは無くとも、心は満たしてくれる。…贅沢であることは分かっている。本来の食事としての意味は果たさないのだから。…でも、たまにはいいだろう。私も一応人の形はしているのだから。
『……?少年、どうかしたかな』
クロロ少年がじっと私を見ていた。疑問に思って問う。
「……いや。なんでもないよ」
そうやって笑って答えた少年の真意は分からなかった。