碧に染まって

□引き金
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あれから彼らとは定期的に会っている。私にも仕事、週一の帰省があるので毎日とはいかないが、それでも週に数回は必ず彼らの元へ足を運んだ。

空いた時間の分、私にも彼らにも話したいことがたくさんある。訪れた日は大体深夜まで話し込んだ。そのまま"アジト"に泊まった日もある。

仕事の話もたくさん聞いた。生憎と私は話せないので誤魔化すことになったが……何れは話すことにはなるだろうな。

盗ってきた、という品もいくつか見せてもらった。絵画や宝石は勿論、本なんてものもあった。本は売れる、というよりクロロの趣向らしい。アジトの一角に並べられていた。盗んできた、というだけあってあまりお目にかかれないようなものばかりだった。今度時間があるときに読ませてもらおう。

ゾルディックにこの旨は伝えていない。聞かれたら答えるつもりだけれど、盗賊、とまでは言えない。……いつか幻影旅団の討伐、なんて仕事がこないことを願う。そうなったとき…私はどちらに動けば良いのかわからない。彼らを…"討伐"なんて出来るわけがないのに。

同様に、ヒソカにも言っていない。


それと、長老からの連絡が途絶えて6週間が経った。


6週間…一ヶ月と半月。元々長老からの連絡は不定期ではあった。用がなければ連絡することもない。だから、6週間空いたからといってどうということは無いはずだ。しかし、最後のメールは明らかに…今までとは異なっている。

そうでなければ私もここまで気を割かない。

『……………え、』


だから、結果として、私の不安は当たっていた。


思わず、足を止めた。それから息を止めた。目はその文字を捉え、瞬きを暫く忘れた。

それは一瞬で、とても長かった。

文字が過ぎ去ろうとして初めて体の四肢を動かす。

『、待って!』
「…え?」

訳が分からないだろう。急に知らない奴から"待て"と言われるのは。その上私は絶をしていた。急に背後に立たれた、とでも思ったかもしれない。

新聞片手に歩いていた器用な男は豆鉄砲を喰らったように驚いていた。

けれど男に状況を説明している余裕は私にはない。呆然としている男の手から新聞を抜き取る。そして、改めてその文字を見た。

_クルタ族 虐殺 緋の目 全員 山奥 非道 全員 全員 くり抜かれた 瞳 こ ども ………。

「…あのう、俺に何か…?」

『…………ぁぁ…』

あああ。


頭を殴られたような感覚だった。


_村人は128人全員が殺されていた。家族は向かい合わせに座らされ、体中に刃物を刺され生きた状態で首を切ら_純粋なクルタ族は全て両目がえぐ_外から嫁いでくるなどして入村した者は眼球は残っていたが潰_以外の者をみせしめに傷つけ怒りと悲しみで緋の眼に変わった者の首を次々と落と_

_子供の方が傷の数が多く無残であったのも親にその苦しむ様子を見せつける事で、より鮮やかな緋色を発せさせ様と賊がもくろんだものと_

問題ない訳がなかった。どうして、もっと、真剣に、捉えなかったのか。気づけない、分からない、ことじゃなかった、のに。


_すまない。


長老からの言葉。……あれは、謝罪だった。謝罪だったんだ。

「…だ、大丈夫ですか?」
『………ええ』

今の私は酷い顔をしているだろう。男性はやけに心配そうに私を覗き込んでいた。

『急に奪うような真似をして…すみません』
「い、いや…それは構わないけど……あのほんとに凄い顔色悪いけど…」
『すみません。ありがとう、ございました』
「あ、ちょっと!」

いつの間にか歪んでしまった新聞の端を軽く直して男性に返す。それから背を向ける。背後で男性が何やら言っていたが私の耳には雑音としか認識出来なかった。

……とにかく確かめなければ、と思った。この世は虚像に溢れているから。だから自分の目で、瞳で、確かめなければ。

_ポケットが震えた。

歩みは止めず携帯を取り出す。……クロロ、だった。私は応答ボタンを押す。

『……クロロ?』
〈ああ。ノア、今からこっちに来れないか?〉
『…どうして?』

なるべく平常を保とうと話す。こっち、というのはアジトのことだろう。……私も丁度、予定が出来た。

〈見せたいものがある〉
『……わかった』

待ってる、そう言ってクロロは通話を切った。

走ることはなく、けれど気持ちは急いで飛行場へと向かう。……まだ近いところで良かった。ここからなら数時間で着くだろう。

『………』

頭に、プラムの笑みがちらつく。その景色が歪んで、焼けて落ちていく。

大丈夫、これは想像だ。

想像だから、大丈夫。

そうやって繰り返しでもしないと、何か得たいの知れないものに飲み込まれてしまいそうだった。

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