碧に染まって
□愛愁
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クラピカが4日目に目を覚ましたのは丁度よかった。
というのも、ゾルディックの帰省が刻一刻と近づいていたからだ。
…疑われないためには、いつも通り振る舞わなくてはならない。
クラピカが起きなかったとしてもパドキアまで行くのは容易い。ただ、私が担いでいくのはあまりに目立ちすぎる。一般の目は誤魔化せても…彼らの目は誤魔化せない。
…………そういえば、クラピカは六週間もの間、何処へ居たんだろう。
『…ねぇクラピカ』
「何?」
お風呂を上がったクラピカは濡れている髪をタオルで乾かしていた。……私はクラピカに近づきそのタオルを取る。
『おいで』
そしてベッドの端に座らせる。私はベッドに上がり、クラピカの背後に座る。それからクラピカの頭をタオルで包んだ。
「!…ノア…?」
驚かれはしたが抵抗はされない。少し頬を緩めてクラピカの髪を乾かす。
『クラピカは、もしかして村を出たの?』
何処に居たの、と聞こうとしてこちらを選択した。…六週間もの間あの村に隠れていた…というのも考えられなくはないが、相手は彼らだ。念による索敵をクラピカが掻い潜れるとは思えない。
だから、村の外にいないとあり得なかった。
「……うん。…パイロの眼を治し、たくて」
歯切れ悪くクラピカは答える。…治す…?…パイロは眼が悪かったんだろうか。
『パイロって眼が悪いの?』
「…うん。昔…崖から落ちて………」
クラピカの声が段々と小さくなる。同時に頭が下がっていった。
『そう…。じゃあもしかして、今住んでる家とかある?』
まだ聞きたいことはあったがこれ以上突き詰めて苛める趣味は私にはない。本題に戻すことにした。
「ううん。…ホテルを点々としてた」
そう。と私は一言返す。
もし家があるのならそこで過ごすのが一番安全だと思ったのだが…これは当初の予定通り家探しをしないと。
『はい。乾いたよ』
「………ありがとう」
『いえいえ』
クラピカの頭を一度撫で、ベッドを降りる。
『クラピカ。今日中…あと30分くらいでこの町を出る』
「…どこにいくの?」
『私の家がある街』
「………分かった」
クラピカは頷く。それを見て私は袂から取り出す。その一枚の紙をクラピカに渡す。
「……飛行船のチケット…パドキア共和国…」
『そう。それと、これ』
もう一枚の紙を手渡す。こちらは私の手書きだ。
『簡単な地図と住所。ここで待っていて欲しいんだ』
「………ノアは一緒じゃないの?」
クラピカの質問は最もだった。
『うん。………私にも色々あってね。本当は一緒に行きたいんだけど……ごめん』
執事さん達が迎えを寄越してくれていた。……元々個人的に来たので帰りも一般のもので帰ろうと思っていたのだが……いつの間にかそういうことになっていた。こちらから連絡をした訳では無いはずなんだけど…もしかしたら携帯のGPSで探したのかもしれない。こちらにもそういう機能はあるみたいだし。
断ったが、断りきれなかった。……何故か執事さんたちは頑固なところがある。維持でも私を送る気満々だった。…ありがたいことではあるけれど。
『着いたら連絡頂戴。…一人で大丈夫?』
「うん……」
クラピカは頷くものの浮かない顔だった。
一人では行けない、という表情では無い。……不安、だった。今のクラピカは只でさえ心が不安定だ。
『クラピカ』
クラピカの顔を上に向かせる。私は柔らかな頬を両手で包み、前髪にキスをする。
「…っ、え……!」
『おまじない、かな』
そして、誓いでもあった。
クラピカは大きく眼を見開いていた。私は頬を緩める。
『さぁ、そろそろ行こう』
私は言って、クラピカの背中に腕を回す。
「な、なに!」
『ドアからは出られないから……しっかり掴まってて』
「え__」
クラピカを横抱きにし、抱き締めると私は窓から飛び降りた。