碧に染まって

□数律背反
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ノアの地図は喫茶店を示していた。……入って待て、ということなのか。それとも店の前で待ち合わせなのか。

「………」

そもそも…なんでノアは後から来るんだろう。詳しい理由を話してくれなかったから…なんだか、変な感じになる。オレはノアのことをあまり知らないから当たり前だけど…。

店の前で立ち呆けるオレを街行く人が見ているような気がして、何処と無く居心地が悪くなる。

…とりあえず、着いたら連絡だ。

そう思って携帯を取り出す。…ノアがくれたものだ。オレが知ってるものよりも新型に見える。簡単な使い方は一通り教わったから大丈夫だ。

連絡帳からたった一人の連絡先を選択する。

プルルル、と2、3回鳴った後音が止む。

〈…もしもし〉
「!、ノア。その…着いた、けど…」

慣れない感覚に少し緊張する。……まさか一番最初に電話をかける相手がノアになるとは思ってもいなかった。

〈分かった。私も直ぐに向かう……お店の外?〉
「うん。入っていいのか、分からなくて」
〈そのまま外でいいよ……あー、ただ出来ればお店の裏口に来てくれるとありがたいかな〉
「……裏口?」

聞き返すがノアは詳しく説明してくれない。……どちらにせよ、オレはノアの言われた通りにするしかない。聞くにしても電話より直接会った方がいい。

「分かった」
〈ありがとう…それじゃあ、直ぐに行くから〉

そこで通話は切れた。念を押すってことは本当にすぐ近くにいるのかもしれない。そう思って携帯を仕舞うと直ぐ行動に移った。

裏口…だからお店の裏にある。
店の横に路地があったのでそこを通って行く。喫茶店とその隣の建物の隙間の路地は、暗く、どこか不安になる。

路地を進めば右側に空間が現れる。そこは建物の間にポカンと空いた穴のようだった。

そこで金色が煌めいていた。

「………」

…声をかけるのを忘れた。まるで…ノアだけが別の世界にいるようだった。

初めて会った時からそうだ。ノアは…オレたちとは違う次元の人みたいだ。おとぎ話に出てくる登場人物みたいな。…そんな非現実性があった。

『…いつまでそこで立ってるのかな?』
「あ……!」

はっとして頭を切り替える。オレはノアの元に駆けていく。

『よかった。ちゃんと来れて』
「う、うん。……どうしてわざわざ裏口なの?」

気になっていたことを聞く。ノアの表情はこれといって変化しない。…まるで聞かれるのがわかっていたみたいだ。考えすぎかもしれないけど。

『えっと…表じゃ都合が悪いから、かな。それに表だとお客さんの出入りとかあるからね』

…多分、前半部分が本音なんだろうと思った。都合が悪い。…一体なんだろう。ノアは目立つからそれでかもしれない。でも…それだけじゃないようにも感じる。

「そうだったんだ……それでこれからどうするの?」

考えても答えは得られない。それに、いつまでもここにいるわけにもいかないため尋ねる。…わざわざノアの住んでいる街に行くってことは何となく予想はつくけど。

『家探し』
「え?」
『君の住む家を探すんだ』

その言葉を聞いてオレは咄嗟に顔を背ける。表情を戻す。……てっきりノアの家に一緒に住むのかと思ってた。だから、その予想が外れたことに恥ずかしくなる。

『…ごめん。本当は私も一緒にいたいんだけど、…私の家はあまり安全じゃないんだ』
「……」

内心がバレていたことに何ともいえない感情になる。そしてノアの言葉を振り替える。

…安全じゃないって…一体どういうことなんだろう。だってオレからすれば…ノアが居れば安全だから。

『一緒に住めなくとも毎日君のところに行く。…だから安心してほしい』
「……」

別にそこまで気を使わなくてもいい、とは言えなかった。

『大丈夫。…クラピカは分からなくても、私は君の近くにいる。君を守っている。それこそ24時間ずっと、ね』

…ノアがオレの頭を撫でる。ノアの手で撫でられると不思議と大丈夫な気がしてくるから不思議だ。

『さぁ、日が暮れる前に探しに行こう。…といっても大体の"あたり"は付けているからクラピカは選んでくれればいいよ』
「…うん」

オレは控えめに頷く。

差し出された手に一瞬戸惑う。繋いだ方がいいのか。繋がない方がいいのか。…すると、ノアの方から繋がれた。

…オレはもう12だ。だからこういうのはなんか…居心地が悪い。そう感じながらノアを見上げる。

『うん?』
「………」

ノアは綺麗に微笑んでいて、それは嬉しそうにも見えた。

だからやっぱりオレは…そのまま顔を背けた。

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