碧に染まって
□数律背反
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警戒はされなくなったものの、クラピカからの疑問が多い。それは言葉には出されていないが、顔を見れば分かる。
…家が決まったらある程度は話すべきだろう。そのほうが私にとってもいい。護るためにも信頼関係は大事だ。
家を選ぶ基準は至って簡単だ。
私の"円"が届く範囲であればいい。
安全な場所、なんて言ってしまえばどこにもない。けれど、私の目が届いているなら別だ。
ゼノさん曰く円の範囲は個人差があるらしい。定義では半径2m以上を円と呼ぶらしいが、半径1mの者もいるし、1kmなんて者もいる。
私は一応半径1kmまでは円を広げられる。
それ以上広げることも出来たが、何故か安定しない。……私の家から離れれば離れるほど安全だが、円の効果を考えると半径1kmが妥当だった。
それに半径1kmまで円を広げられる者はそうそう居ない、とゼノさんは言っていた。………だから、彼らが万一私の家で円をしても引っ掛からないだろう。…例え引っ掛かったとしても、クラピカが"盗り残し"だとは夢にも思わないはずだ。
『どう?クラピカ』
「えっと……うん」
『まぁ急に家を選べって言われても困るか』
私もヒソカの時は随分と悩んだ。私でそうなのだからクラピカはもっと勝手が分からないだろう。しかし、これからクラピカは多くの時間を一人で過ごす。…なら、クラピカが選ばなければならない。と私は思う。
『優先順位はついてる?』
「うん」
流石、というべきか。分からないなりに選び方を模索している。それも、格好いいや可愛い、広い、といった見た目での判断ではない。立地的な判断。
そういう頭の良さは少年を思い出す。
『じゃあ聞かせて』
「……ノアの家に近いこと」
『………え?』
「だって……それが一番安全だから」
……その言葉には思わず心臓が跳ねた。
考えてみればクラピカがそう思うのは当たり前だ。私に近い方がいいに決まっている。
「だから…ノアの家ってどこにあるの?」
なんと答えるか迷う。…今まで回った空き家が私の家から大体同じ位置にあると言ったら、クラピカなら分かってしまうかもしれない。…少年なら分かるだろう。
『私の家はそのうち教える。だけど…そうだな、一番近いのは次に行く家かな』
「…本当?」
『うん。数メートルの差だけどね』
それは本当だ。私の家から半径1km圏内の中でも次に行く空き家は他の家より3mほど私の家に近い。
…結局言っていることは同じだが、捉え方は異なるだろう。
私の言葉を聞いてクラピカは納得したような顔をする。
……いずれ分かることだとしても、今と数年後では訳が違う。
「じゃあ次の所にする」
『……まだ見てないのに?』
「うん。そもそも、今までのを見てノアが選んだ所に不満はないから」
…その言葉は信用されている、と勘違いしそうになる。クラピカは私を信用した訳じゃない。…私しか居ないからだ。……勝手に思い上がってはいけない。
『分かった。どちらにせよ行かないといけないから、行こうか』
「うん」
クラピカの手を掴み歩き出す。
「……」
クラピカはまた難しい顔をする。嫌…という訳ではないだろう。その表情は違和感に近かった。…いずれ何とも思わない日が来ればいいな、と感じた。