碧に染まって
□青
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『!ミルキ』
「!うお!?」
扉を開けて目があった瞬間、包容。
思ってもいなかった事態に変な声が出た。
つか、……は、…!?……え!!
この柔らかい"いい"匂い。感触。そして声。
「っ_!!ノア!?」
なんとか剥がれて相手を見ればふわっと、花が舞う。勿論花なんてどこにもない。ただの幻覚だ。
『やぁ、ミルキ』
「やぁ……て………………は……?」
『そこまで驚かれると私も予想外なんだけれど』
ノアはにっこりと微笑んでから困ったように目尻を下げる。
相手がノアだと分かって多少落ち着いたものの……そもそも、今日来るなんて聞いてねーんだけど…。
「どうやって……」
通常、ノアが来たら連絡が来る。それはゾルディック家全体にだ。オレも例外じゃない。
それなのに連絡がなかった。…てことは。
『個人的に話したかったんだ。だから…お忍びで来たんだ』
「………お忍び…」
ノアはわざとらしく唇の前に指を立てて言う。それもまた綺麗だな…、と思いながら彼女の言葉を復唱する。
お忍び、て。つまりゾルディックの監視を完全に潜り抜けてきた、訳だ。
門を開けたら分かる。てことは……開けないで、別の場所から入り、それでいてミケもやり過ごした。
………あり得ない話でもない。なにせ相手はノアなんだから。
『だから…出来ればこのまま話せれば嬉しいんだけど』
このまま、というのはお忍びで、ということだろう。
「…ああ、分かった」
『ありがとうミルキ』
ノアは嬉しそうに微笑む。
本当なら誰かに伝えないといけないが……ノアの頼みをオレが断れる訳がない。というか断る気ない。
ノアは何ていうか………絶対的な何かだ。でも父さんとかイル兄とは違う。従う、訳じゃない。従いたい、だ。
ノアがオレに強制を求めたことはない。むしろ……いつも解放してくれた。優しかった。それに綺麗だし。
ノアを嫌いになる理由なんて何処にもない。
それはオレだけじゃない。…ゾルディック全体がそうだ。だから、ノアは信用できる。
そう思わせるなにかがノアにはあった。
「…とりあえず適当に座って」
『ありがとう』
ノアは部屋の隅に控えめに座った。オレも向かい合うように座った。
「それで…話って?」
そもそも…ノアと直接会うのも随分久しぶりだ。オレが部屋から出ないから当たり前なんだけど。
それに…"話がある"のも初めてだ。
ノアがわざわざオレに話……それも、お忍びで。…自然と身構える。
『ふふ。そんなに畏まらなくても、そこまで重要なことではないよ』
「つっても…ノアから話がある、なんて言われたの初めてだから」
可笑しそうに笑うノアに正直に言えば、確かに、とノアは頷く。
そんな一言でさえ、耳に残る不思議な響きがある。口許を控えめに押さえ、目を細めて笑うノアが網膜に焼き付いて離れなくなる。
……本当、いつ見てもノアは綺麗だと思う。整った容姿。それも並みじゃない。
ノアは三次元、というよりも絵画だ。だからといって二次元でもない。現実に存在していて、けれどオレたちとは違う。
『話…というかやってほしいことなんだけれど…』
「…オレに?」
『うん。ミルキにしか出来ないんだ』
目を丸くする。…ノアは基本何でもできる。その上でオレに頼むことは。
『調べてほしい』
何を、そう聞く前にノアがポケットから取り出す。
『このことは他言無用…ね』
ノアの笑みは綺麗で柔らかくて、オレは息を飲んだ。