碧に染まって

□青
1ページ/3ページ


『!ミルキ』
「!うお!?」

扉を開けて目があった瞬間、包容。
思ってもいなかった事態に変な声が出た。

つか、……は、…!?……え!!

この柔らかい"いい"匂い。感触。そして声。

「っ_!!ノア!?」

なんとか剥がれて相手を見ればふわっと、花が舞う。勿論花なんてどこにもない。ただの幻覚だ。

『やぁ、ミルキ』
「やぁ……て………………は……?」
『そこまで驚かれると私も予想外なんだけれど』

ノアはにっこりと微笑んでから困ったように目尻を下げる。

相手がノアだと分かって多少落ち着いたものの……そもそも、今日来るなんて聞いてねーんだけど…。

「どうやって……」

通常、ノアが来たら連絡が来る。それはゾルディック家全体にだ。オレも例外じゃない。

それなのに連絡がなかった。…てことは。

『個人的に話したかったんだ。だから…お忍びで来たんだ』
「………お忍び…」

ノアはわざとらしく唇の前に指を立てて言う。それもまた綺麗だな…、と思いながら彼女の言葉を復唱する。

お忍び、て。つまりゾルディックの監視を完全に潜り抜けてきた、訳だ。
門を開けたら分かる。てことは……開けないで、別の場所から入り、それでいてミケもやり過ごした。

………あり得ない話でもない。なにせ相手はノアなんだから。

『だから…出来ればこのまま話せれば嬉しいんだけど』

このまま、というのはお忍びで、ということだろう。

「…ああ、分かった」
『ありがとうミルキ』

ノアは嬉しそうに微笑む。

本当なら誰かに伝えないといけないが……ノアの頼みをオレが断れる訳がない。というか断る気ない。

ノアは何ていうか………絶対的な何かだ。でも父さんとかイル兄とは違う。従う、訳じゃない。従いたい、だ。

ノアがオレに強制を求めたことはない。むしろ……いつも解放してくれた。優しかった。それに綺麗だし。

ノアを嫌いになる理由なんて何処にもない。

それはオレだけじゃない。…ゾルディック全体がそうだ。だから、ノアは信用できる。
そう思わせるなにかがノアにはあった。

「…とりあえず適当に座って」
『ありがとう』

ノアは部屋の隅に控えめに座った。オレも向かい合うように座った。

「それで…話って?」

そもそも…ノアと直接会うのも随分久しぶりだ。オレが部屋から出ないから当たり前なんだけど。

それに…"話がある"のも初めてだ。

ノアがわざわざオレに話……それも、お忍びで。…自然と身構える。

『ふふ。そんなに畏まらなくても、そこまで重要なことではないよ』
「つっても…ノアから話がある、なんて言われたの初めてだから」

可笑しそうに笑うノアに正直に言えば、確かに、とノアは頷く。

そんな一言でさえ、耳に残る不思議な響きがある。口許を控えめに押さえ、目を細めて笑うノアが網膜に焼き付いて離れなくなる。

……本当、いつ見てもノアは綺麗だと思う。整った容姿。それも並みじゃない。
ノアは三次元、というよりも絵画だ。だからといって二次元でもない。現実に存在していて、けれどオレたちとは違う。

『話…というかやってほしいことなんだけれど…』
「…オレに?」
『うん。ミルキにしか出来ないんだ』

目を丸くする。…ノアは基本何でもできる。その上でオレに頼むことは。

『調べてほしい』

何を、そう聞く前にノアがポケットから取り出す。

『このことは他言無用…ね』

ノアの笑みは綺麗で柔らかくて、オレは息を飲んだ。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ