碧に染まって
□嘘
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手を握っては、開く。
しばらく見つめて、また握る。
『……………』
加減が、上手く効かなかった。
本来私はクラピカの攻撃を一切受けないで、避けるつもりだった。攻撃はこちらからはしない。そういうつもりだった。
なのに。
……自分の体だ、己が一番よくわかっているはずだった。それなのになんだろうか、この違和感は。
違和感の元を探る。考える。
『………またか』
クラピカとの戦闘中の所々の記憶がなかった。明らかに辻褄が合わない。
…なにこれ。認知症?
確かに歳は重ねているけれど…それにしても35とか40とかそれくらいだろう。…早すぎる。
記憶障害…CTでも撮りにいこうかな…。
『…………』
洗面台の鏡を見つめる。
もう見慣れてしまった顔。けれど、未だに"自分の顔"とは思えない。黒髪黒目は見る影もない。
『君は一体誰なんだろうね』
そう尋ねても鏡の私は微笑みも、返答もくれない。当たり前だ。私なのだから。
「ノアはノアじゃないか」
声、それから気配、オーラ。確認して顔をあげると鏡越しで眼があった。
『…ヒソカ』
目が合うとヒソカは私の首に腕を回してくる。私は静かに背中を預ける。
「…ノア?」
普段あまりやらない行為だからだろう。ヒソカは少しだけ目を丸くした。
『そろそろ来る頃だと思ったよ』
私はヒソカの腕の中で向きを換え、彼と向き合う。
『一番最初がヒソカだったのは予想外だけれど』
「なんのことだい?」
『発信器』
私はヒソカの見える位置に小さな四角を摘まんで上げる。
ヒソカの頬が静かに上がった。
『私の携帯に付けていたでしょう』
「あぁ、バレちゃった」
ヒソカには全く悪びれの素振りもない。私はため息をつく。
『はぁ…盗聴器じゃないだけまだいいけれど』
「ボクも迷ったんだ。どちらにするか、それとも…両方か」
その発言は流石に顔がひきつる。
…ヒソカはこんなにも危ない子だったっけ。と考えて確かに否定はしきれないか、と納得する。…その原因が私になきにしもあらず。
「でも盗聴器なんてつけたら面白くないだろう?それに、ボク以外の誰かと話してるところなんて聞いたら…」
ヒソカの頬は更に上がり、口は弧を描く。その表情は恍惚、というのがいいか。……なんにせよ見ていて気持ちのいいものではない。せっかく綺麗な顔なのに。勿体ない。
「それより、一番最初っていうのはどういうことだい?」
ヒソカが少し落ち着いてから、私に尋ねる。既に腕からは脱している。
『こういうことだよ』
私は残り二つの小さく四角いものをヒソカに見せる。どれも似かよっているが、微妙に違う。けれど性能は同じ。
「へぇ、ボク以外にも。妬けるなァ…。誰かは分かってるのかい?」
『うん。おおよその検討は付いている』
内一つは既に確定だ。もうひとつも、ほぼ間違いないと言っていいだろう。
はぁ………。私は息をつく。
発信器がついているかもしれないことは分かっていた。
気づいたのはクロロの一件。明らかにクロロは私の行動を把握していないと出来ないことをしていた。発言をしていた。いつ付けられたのかは分からないから確実、とは言えないけれど。
だからミルキに頼んだ。私の知り合いで機械に詳しそうな人はミルキしか思い付かなかったから。
そうして、調べてもらって…てっきり発信器は付いていても一つだと思っていた。
三つだと言われたときは戦慄した。
『…私の生活パターンなんて見ても面白くないでしょう』
「面白いよ。それに、そうじゃない。ボクらは」
『…ら?』
即答で面白い、と言われるとそれ以上何も言えなくなってしまう。…今までの生活を振り返る。基本、お仕事以外は家に籠っているか出掛けても一ヶ所に留まることが多かったはず。……面白くもなんともない。
「常にノアを感じていたいんだよ…キミもそうだろう?」
「一緒にするな」
居るのは分かっていた。今の私はずっと円をしっぱなしだからな。
彼はヒソカの後ろから姿を表す。不機嫌さがにじみ出ていた。
『イルミも来たんだ』
「なんで取ったの」
『開口一番それですか…逆聞くけれど、発信器が付いてると分かって取らないのもどうかと思うよ』
イルミの表情は変わらず硬い。確実に分かっていた一つがイルミ。ミルキからの証言だ。
「それで、あと一人は誰だい?」
あと一人は
『………』
…この場にはいないな。
『残念ながら釣れなかったかな』
気づいたとしても、こちらに直ぐに来れるわけではないだろう。彼も忙しい身だ。
『…とにかく、今後は勝手にこういうものをつけたりしない。一応、プライバシーの侵害だからね』
「じゃあ許可をとればいいのかい?」
『……それで私が頷くと思う?もしつけるのならバレないようにつけようね』
そうヒソカに言った筈だが、後ろでイルミが納得したような顔をしていた。……これからは毎日調べないといけなくなりそうだ。