碧に染まって

□記憶の底
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一面の灰色。

上も下も灰色。

喉を刺すような空気。

籠った温度。

知ってるもの、知らないものが入り交じって知らないものになっていた。

『………』

…やはりここは凄い。なんというか、圧倒される。けれど不思議と嫌な感じはしない。一応、故郷だからだろうか。と言ってもこの土地にあまり思い出はないけれど。

およそ15年ぶりに降り立ったその大地は驚くほどに以前と変わっていない。品変わりはしているのだろうが、私に判別は不可能だった。

本来こんな所で人は生きづらいが、周囲にはちらほらと人間がいた。

ここが出入口であるからかもしれない。

『…流星街』

ここでは何を捨てても許される。

そうクロロから聞いたときは驚いた。まさかその名前を聞くとは思わなかった。

…もしかしたらネテロ会長はあの時点で私がここの出だと分かっていたのかもしれない。ハンター教会の会長なのだ。情報網は凄まじいだろう。…何故尋ねたのかは分からないけど。

輝きの街ではなかった。このくすんだ空気では星なんて一つも見えない。
流星…流れつく終点…なんだろうか。

地図にない街。存在していない街。

…そりゃあ、私が見つけられない訳だ。と納得した。

『教会はどっち?』
「こっち。少し歩くけど」
『分かった』

クロロが先導するのに従う。足場は相変わらず良くない。一応道のようには見える。

目印に見えるようなものも、方角も分からないがクロロは迷うことなく道を進む。

「そういえばノア。記憶が無くなり始めたのはいつ頃?」
『明確に気づいたのは例の一件だけれど。…いつ、と言われると始めからかな』

今回教会に行くにあたってクロロに事情は説明していた。勿論、ゼノさんのことは伏せて。オーラが増加していることと、記憶が時々無くなること。

……パクノダのことがある為、クロロにだけ話した。そしてクロロに案内を頼んだ。…狡いようだが"二人だけがいい"と言えばクロロはお願いを聞いてくれる。…周りに見知ったオーラは無い。

クロロは私の不安要素についてあまり驚かなかった。…既にわかっていたのかもしれない。

『そもそも、目覚めた時から自分が死んでいることを忘れていたから。…それと、これは少し異なるけどあっちの世界……つまり私の生きていた世界のこともあまり覚えていない』

そう考えると"始めから"と言う他無かった。

『ただ、明らかに最近は頻度が高くて』
「同時にオーラも増加していた」
『そう。だから気になったんだ。記憶だけならまだしも、オーラは原因がなければ急に増えるものではない』

未だに自分で見ても分からない。ただ、口を挟まれないということはクロロの目には増加したように見えているんだろう。

『それで最初から記憶が無かったのなら、最初の場所を調べるのが早いと思って』

そういうことにしていた。…実際はゼノさんのお陰だ。

『それに、興味もあるからね。当時と今では見る目線が大分違うもの』

それは嘘では無かった。

『…そういえば、クロロは教会へは結構行ってるの?』

話を聞く限り、彼らが流星街を出たのは結構前のこと。出てからは戻ってきたりはしていたんだろうか。そうであるなら道に迷わないのも分かる。

「最近はあまり。ノアを見つける前は、それなりに」
『そっか…』

クロロの表情は変わらない。言葉に乗せられた感情を読み取る。

『…クロロ』

私はクロロの前に立つ。よってクロロは止まる。

私はクロロの手を掴む。それから自分の額に当てる。謝罪ではない。感謝だ。

『…私を見つけてくれてありがとう』

それからクロロに微笑む。クロロは少し目を開いて、それから微笑み返してくれる。

それを見て手を離す。クロロの一歩前を歩みだす。

「…不味いだろ。今のは」

クロロの呟きはノアに届くことはない。

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