武士と侍

□第二刀
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「でも、その子が嘘をついてないとは限らないよね。」
「何を仰るんですか、急に…。」
「君は賢そうだからね。」

見ず知らずの人間に真実を話すとは思えないじゃない?と、総司と呼ばれた若い男は続けた。

「確かに…格好も変だしな。」
「妙に落ち着いているが…。」

赤い頭の男と斎藤と呼ばれた男が総司と呼ばれた若い男に賛成し始めた。
…格好がおかしいのはお前だ、という言葉はこの際のみこむことにする。

「お待ちください。何故私が疑われなければならないのですか?」
「そうだって!総司、嘘を見抜くのは得意だろ?!」

桜が反論すると、茶色の男が加勢した。
彼にはきっとわかっているのだ。疑うという行為が虚しさしか呼ばないことを…。

「得意と言っても一番組組長の時のことで、死んだ今となってはねぇ。」
「死ん…?何を仰っているんですか貴方は!」
「あれ、言ってなかったっけ?僕たちはもう死んでるんだよ。」

桜とて、その可能性を考えなかったわけではない。
土方が窓を知っている。恐らく、五稜郭に行った後だから。
斎藤が電気を知っていて、土方が知らない。土方はすでに死んでいたから。
その斎藤すら電気には驚いていた。まだ広く普及していなかったから。
これらから導かれる時間軸は、新選組隊士全員の没後。
つまり、この場の全員が、一度は命を落としているということだ。

「そんな、ありえない…。」
「ありえないも何も、現実に起こってるんだよ。」
「そもそも、私は貴方方の名前すら教えていただいてません!」
「ああ、そういえば名乗ってなかったっけ?すっかり忘れてたよ。」

そう、察しがついているとは言え桜は名乗られていない。
知らないフリをしなければならないのだ。

「じゃあ自己紹介でもしようか……また、ね。」

総司と呼ばれた若い男の、明るく軽い声が六人しかいない広い家にやけに響いた。
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