fan fiction

□屋上三景
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   scene 2



「いいもん見せてやるから、ちょっと来い」


いつものごとく、唐突にリボーンが言った。
綱吉は獄寺、山本と顔を見あわせる。
特に急いで帰らなければならない理由もないけれど、素直に従うのも躊躇われる。
リボーンの言葉にしたがったせいでとんでもない目にあったことが、数えきれないほどあるからだ。
とはいえ、嫌だと言っても無駄なのである。


「またなんか企んでるんじゃないだろうな、リボーン」
「おまえ、自分の家庭教師を疑うのか」
「自分の家庭教師だから疑うんだよ」


これでも経験を積んでいるのだ。
少なくとも、危機意識は強くなった。
単に疑りぶかくなったともいうが。

「なんにも企んでねえぞ。安心しろ」
「だから、それが嘘くさいんだって」
「……今日のところは、な」
「やっぱり不吉な予感しかしない!」
「まあまあ、ツナ。小僧が安心しろっ言ってんだし」
「だから、山本はリボーンに甘すぎ!」
「大丈夫です、10代目! なにがあっても10代目は俺がお守りします!」
「あ、ありがとう、獄寺くん……」


ああだこうだ言いながらも、結局は階段室まであがってきてしまった。
そして、不承不承閉ざされているドアを開けると、そこは──。
そこは、戦場だった。


「ヒ、ヒバリさん!? それに、ディーノさんまで!」
「よお、ツナ! 久しぶ」
「うわっ、ディーノさん危ない!」


綱吉たちに笑いかけたディーノの、その顔を薙ぎはらうようにトンファーが勢いよく振りおろされる。
しかし、ディーノはそれを間一髪のところで避けてみせた。


「っと、やっべー」
「余所見してないで、真面目にやりなよ」
「弟分に挨拶しただけだ、ろっ」


お返しとばかりに、黒い鞭が唸りをあげて雲雀に襲いかかる。
が、それを余裕でかわして距離をとると、雲雀はトンファーを構えなおした。


「君たちも、邪魔をするなら咬み殺すよ」


綱吉たちに一瞥をくれるとすぐに、コンクリートの床を蹴る。
走るというより、飛んでいるような勢いでディーノの懐に入りこみ、思いきりトンファーを振りあげた。
ディーノはそれを両手で張った鞭で抑えこみ、反動をつけて後ろに飛ぶ。同時に、鞭が雲雀めがけて鋭く伸びていく。


「すごい……」
「だから、いいもん見せてやるって言っただろ」
「ヒバリが強いのは知ってっけど、ディーノさんもすげえのな」
「跳ね馬の通り名は伊達じゃねえってことか」
「三人とも、よく見とけ。強いやつが戦うのを見るのも修行のうちだぞ」


こそこそと話をしている間も、ディーノと雲雀は止まらない。
近づいては離れ、離れてはぶつかっていく。
トンファーが鋭い音をたてて空を切り、鞭はまるで生きているかのように、しなやかに伸びる。


「ディーノさんて、こんなに強かったんだ」
「しかも、跳ね馬の奴まだ本気だしてないっすからね」
「だな。ぜんぜん余裕って感じ。ヒバリはマジだけど」


たしかに、雲雀の殺気は本物だ。
けれど、ディーノはそれすらもかろやかに受けながしているようにみえる。


「でも……なんでだろ。なんかこれって戦ってるっていうより……」


まるで格闘技の型の模範演技でも見ているな気がしてきた。
していることは実質殺しあいなのに、まったく暴力の匂いがしないからだ。
それほど二人の動きは洗練され、いっそ優雅だった。


「お互いの動きも癖も熟知してるからな……まあ、それ以上に合っちまったってことなんだろうが」
「リボーン?」


途中で低くなったリボーンの声に、綱吉は肩に乗った赤ん坊を振りかえる。
そのとき。
ひときわ鋭い音が屋上に響きわたった。


「よし。今日はここまでだな」


慌てて視線を戻すと、ディーノの鞭がトンファーごと雲雀の右腕に絡みついている。雲雀はそれを必死にほどこうとして、かなわないでいるようだ。


「くっ……!」
「こーら。暴れんな。怪我するぞ」


悔しそうな顔で腕を振り回す雲雀をたしなめながら、ディーノは手をかるくふって、鞭をあっさりとほどいた。


「よし。オレたちも帰るぞ」
「え? あ、うん。なんか、すごかったね」
「そうっすね……やっぱ跳ね馬は敵だ」
「オレもディーノさんと手合せしてみてー。鞭っていうのも、面白くねえ?」
「なんでも面白がんじゃねえ、この野球バカ!」
「けどさー」


けして長い時間ではなかったけれど、それぞれ思うところはあったらしい。
相変わらずの調子とはいえ盛りあがっている親友たちの姿にこっそり笑みをこぼしながら、綱吉は二人のあとについて階段をおりる。


「ところで、ツナ」
「なに?」
「特効薬の効き目がわかっただろ」
「特効薬って……ああっ!」
「じ、10代目!?」
「どうした、ツナ?」
「ご、ごめん。なんでもない」


驚いて振り向いた二人に手を振ってみせ、綱吉は声をおとした。


「特効薬って、ヒバリさん専用とか言ってたやつ? あれって、ディーノさんのことだったの?」


何日かまえ、偶然見かけた雲雀を思いだす。
たった一人で屋上に立ち尽くしていた、淋しげな後ろ姿を。
たしかに、あのときリボーンは特効薬がくると言っていたけれど。


「効果てきめんだったろ」
「むしろ、効きすぎな気がする……ディーノさんて劇薬だったんだ」
「あいつらの場合は相乗効果だな」
「うん? あ! なあ、リボーン。なんにも言わないで来ちゃったけどさ、二人にお礼っていうかお詫びっていうか、とにかく挨拶しておいたほうがいいんじゃ……」


おりてきた階段をもどろうした綱吉を、リボーンがとめた。


「やめとけ」
「でも、あとでヒバリさんに咬み殺されたらどうするんだよ!」
「いま戻ると、咬み殺されるだけじゃなく蹴り殺されるぞ」
「はあ?」
「……そんなんだから、未だに京子をものにできないんだぞ、ダメツナ」
「また、それ!? なんだよ、どういうことか教えろよ、リボーン!」
「自分で考えろ、バカツナ」


言い捨てて、リボーンは山本の肩に飛びうつる。


「もう! なんなんだよ……でも、まあ、いっか」


とりあえず、本当に雲雀の特効薬がきたのがわかっただけで。
もっとも、そのせいで明日からしばらく、学ランにいつも以上に怯えて生活しなくてはいけないけれど。
何メートルか先を行く山本の肩で、リボーンが振りかえると、にやりと笑った。



「……やっぱり、不吉な予感しかしないんだけど」
「気のせいだ」
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