どうにでもなれ

□し
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鋤で土を掬っては穴に落とす。わたしの放課後は、只管に塹壕を埋める作業で潰れたのだった。
ああああもう!これも全て七松先輩の所為だ!…って、言ってもこれ、わたしが勝手にやってる作業なんだけど…。だって滝夜叉丸一人で七松先輩の塹壕の後始末してるんだぜ?可哀想だろう?この前滝夜叉丸が、用具委員長の食満先輩に怒られてたのを見て流石の滝夜叉丸にも同情した。七松先輩ったら彼方此方に思いっきり塹壕掘るんだから。体力お馬鹿にも程がある。初めて塹壕だらけの中庭の光景を見た時は言葉出なかったからね。

「シズ!一緒に塹壕掘らないか?」

塹壕を堀り進めながらわたしのすぐ足元に土でドロドロな顔をひょっこり出した七松先輩。全くこの人は…!キラキラした笑顔でわたしに苦無を差し出してきた七松先輩に殺気が湧く。

「馬鹿言え!…じゃなかった…やりません!もう!七松先輩、これ以上掘らないでくださいって何度言ったらわかるんですか、まったくもう!」

思わず出てしまった言葉に訂正する事なく続ける。大きな声を出すわたしにも構わず七松先輩はわっははと笑い、シズは牛か?なんて意味不明な事を言ってくる始末。んなわけないでしょうが!と思いつつ、も〜!違います!なんて続けるわたしに七松先輩はご機嫌だ。…ご機嫌をとってどうする。

「塹壕堀りで下級生達もへばっちゃってるじゃないですか、今日の活動今すぐ変えてください」
「細かい事は気にするな!それにこれも歴とした鍛錬、シズもどうだ!」
「結構です」

相変わらず泥だらけの顔で見上げてくる七松先輩。細かくないですお願いだから気にしてください。折角のお誘いだが即答させてもらう。

「何故だ?」
「先輩、この前用具委員委員長の食満先輩に怒られてたじゃないですか!七松先輩自身もちゃんと後始末してくださるなら考えますよ」

ついこの前塹壕堀りに無理やり参加させられた時、体育委員に混じってわたしまで食満先輩に説教食らったのだ。説教というよりただの愚痴だったのだけど…。わたしだって塹壕堀りやりたくてやったわけじゃないのに…!


「そうだぞ、小平太!」

するとそこに丁度食満先輩が縄梯子を使って屋根から降りてきた。噂をすればなんとやらですね。食満先輩に満面の笑みで挨拶をする。

「シズの言うとおりだ。」
「いいじゃないか」
「よくありません!」

穴を埋め直すのは誰だと思ってるんだ!や滝夜叉丸が可哀想!などと食満先輩と二人で今だ塹壕の中に居る七松先輩を攻める状況になっていた。
少し言い過ぎたかも、と思う頃には見る見るうちに元気がなくなっていく七松先輩。苦無を投げ出してしまった。あ、え、ちょ、ええ!?これマジ?あ…七松先輩も人間だったことを忘れてたなんて言えない…。
食満先輩はこれで懲りるだろう、と頷いていた。自分で言っておきながら、少し七松先輩が可哀想な気もする。元気が出るような、何か良い案はないのだろうか…。


「あー…七松先輩?塹壕堀りの変わりにマラソンなんてどうでしょう…?ね?」

少し屈んで塹壕の中でしょんぼりする七松先輩と目を合わせる。…七松先輩泥だらけだなあ。

「シズもか?」
「え…は、はい!じゃあ、今日だけ特別に!」

わたしがそういうと、七松先輩ではなく食満先輩がわたしに、いいのか?なんて心配してくれたけど、七松先輩が元気になるならわたしはもうどうなってもいいんです!!わたし後輩の癖に七松先輩に生意気言った気がしなくもないし!いけどんマラソンなんかに付いていける気がしないけど。わたしのお楽しみの放課後がこれで完全消滅するけども!!
若干涙目になりながらも穴の中の七松先輩に笑顔で手を差し出す。…うん、これでいいのだ。ほら、七松先輩だってこんなに元気に…

「シズ!」
「うおわ!」

力いっぱい抱きついてきた。うわあああ!痛いし!苦しい!ていうか、装束も手も顔も土塗れのまま抱きつくのはよせ!七松先輩の装束に付着していた土が口の中に入ってジャリジャリする。
七松先輩から離れようと七松先輩の胸板を押すのだけども、逆に頭を胸板に押さえられ余計に息ができなくなってしまう。なんでいちいち抱きつくかなあ。ああもう土くせえ。

「掘るのはやめて、マラソンに変更だ!!」
「それはいいが小平太、シズが死ぬぞ?」

食満先輩の言葉でやっと開放されたのだけど、七松先輩の所為で土塗れになったわたしの顔を見て笑う七松先輩に少しイラッと来た。が、七松先輩も土塗れなのでここは抑える。
じゃあ行ってくる、食満先輩に挨拶をしていけいけどんどーん!とわたしの腕を掴み走りだす七松先輩。なんでこの人こんなに元気なんだ。なんだかうまく乗せられた気がするのはわたしだけでしょうか。絶対騙されてるよねわたし。
程ほどにしろよ小平太!なんて後ろから食満先輩の声が聞こえた。食満先輩を見るのはこれで最後になりそうだ……。食満先輩を振り返る。そんなわたしに、余所見をするなと更にスピードを上げてくる七松先輩。って、これ以上は無理だから!きっとこの人わたしを殺す気なんだ。初っ端からこんなペースは死ねる




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