どうにでもなれ

□ご
1ページ/1ページ


七松先輩の気配を感じ、そろりと外に逃げてきた。そろそろ七松先輩から逃げるコツ掴めてきた気がする。七松先輩から逃げ切れる忍たまとくのたまの中じゃ中在家先輩とわたしくらいじゃないかな!ふふ!
と調子乗り始めてきているわたしが逃げてきたそこは競合区域でした。あちこちに罠が仕掛けているのでとても危険だ。…と言っても殆どが落とし穴だあるが…。でもまあ、五年もくのいちの修行してきた身、罠を見極めるのはお安いごようだ!……と見せかけて私はあまり得意ではないのだった。ほんと勉強不足です。早くこの区域から抜け出そう。ふと自分の前に仕掛けられている罠に気付く。危な!気付いてよかった!見極め不得意かと思われたけど、そうでもないんじゃない?と、図に乗ったわたしはご機嫌にその罠を避けて歩く。が、その先に落とし穴がしかけてあった事には気がつかなかったのだ。そして見事に穴に嵌るのだった。あああああ馬鹿かわたしは!穴の中での着地には成功したものの、こんな立派に掘られている穴に落ちるなんて無様すぎる。半べそをかくわたし。もう部屋に帰りたい。

穴の上からザッと砂を擦る音が聞こえ、人の気配に上を見上げた。

「おやまあ」
「おおこれは」

作法委員の四年綾部喜八郎と作法委員長の立花先輩が驚いた顔でわたしを見下ろしていた。くのたまが掛かるなんて珍しい、と綾部に言われ恥ずかしくなる。くのたまの先輩も後輩もみんな優秀だからなあ…。優秀なくのたまたちの顔に泥を塗るようで申し訳ない…。

「あなたはシズさんか」

プルプルと震えながらそう問う立花先輩は吹き出し笑い始める。な!なんで笑うの!?

「なんで笑うんですか!?」
「すまない、可愛らしくてつい」
「からかわないでください!」
「そう睨むな、今助けてやる」
「自分で出れます!!」

そう大きな声をあげ、いじけながらも穴から上がり土を払う。綾部は相変わらず無表情だ。笑いたきゃ笑えよ!!恥ずかしさに顔が熱くなる。そんなわたしを立花先輩と綾部がじ、と見てくるのに更に居心地悪く感じた。なんなんだろうこの二人…わかんないなあ。

「…なんですか?」
「今日、小平太はどうした?」
「七松先輩ですか?知らないですけど…。」

突然出てきた七松先輩の名前に少しドキ、とした。ていうかなんで七松先輩の名前が今ここで出てくるのだろう。すごく謎なんですが。七松先輩が呼んだ?って飛んでくるじゃないかドキドキだよ。

「なんで七松先輩なんです?」
「いつ何時でも共に行動しているではないか」
「し、してませんよ!こっちは困ってるんですからね」

そう言うと、付き合ってるのではないのか?なんて答える立花先輩。立花先輩何言うんですか!勘違いしているようですけど、そういうのじゃないのでやめていただきたいですほんとに!

「困ってる風には見えないが。なあ喜八郎」

そういう立花先輩に、はいと答える綾部。綾部、あなた絶対何も考えずに答えちゃってるでしょ!というか同意求めないでください!ほんと毎回毎回連れまわされて困ってるんだから!!

「立花先輩からも七松先輩に言ってくださいよ。少しはわたしを自由にしてやれって。」
「少しでいいのか?シズもまんざらでもないみたいだな。」
「ち、ちが…!もう!ないわけないですから!とにかく!言っておいてくださいよ!」

この人苦手だわ…。七松先輩が可愛く思える。わかった、と言いながらもニヨニヨと立っている立花先輩をわたしはぷんすかぷんすかと横切る。もう部屋に戻って本でも読みたい。とぼとぼと歩いていると、前方に土煙と共に七松先輩が姿を現した。わたしはそれを見なかった事に、反射的に方向を変え歩き出すのだが、

「わ!!」

そこでまた穴に嵌る。…と思ったら何時の間にかわたしの前に来ていた七松先輩が支えてくださっていた。大丈夫か?と覗き込む七松先輩に思わず魅入ってしまう。

「あ、ありがとうございます…」

腰に回る手なんてこの際どうでもよかった。ぐわんぐわんと血液が体中を駆け巡る様な新鮮な感覚に目眩を覚える。七松先輩から目が離せなかった。…なにこれ!!

「シズもまだまだ修行が足りんなあ!」

わたしはまだまだ未熟者です。七松先輩の様には絶対になれないと思いますが、頑張りたいと思います。なので離していただけないでしょうか。近い!!!!
綾部は何処かに消えていたが、いまだ立花先輩だけがこちらを見ていた。この体制恥ずかしッ!というより、わたしが二度へまをする所見られてたとか恥ずかし!!

「仙蔵!私のシズで遊ばないでくれ!」
「だからわたしは七松先輩のものじゃないです」
「じゃあ私のものになってくれ」
「なんですかそれ」
「そのままの意味だ」

意味わかんないです。ていうかわたしものなんですか。人間なんですけど!そこんとこ本当に分かってるのかな、と本気で心配になってきたよ。本気でわたしのことおもちゃと思ってない?反応のないわたしに可愛らしく首を傾げてぐい、と腰を引き寄せる七松先輩。

「あーもういい加減に離してください」
「いいじゃないか」

よくねーよ。なんなんだこの恥ずかしい人。二人きりだったらいいとか、そんなんじゃないけど、立花先輩見てるし!ここ最近、七松先輩を男として見てしまう自分を殴りたい。この前まではこんなことなかったのに。
七松先輩を力いっぱい押すのだが、如何せんムキムキに鍛えているであろう暴君なのでビクともしない。立花先輩はニタニタしながら邪魔したな、なんて言って長屋の方へ歩き出した。

「た、立花先輩!行かないでください!」

ここで苦手なタイプである立花先輩に助けを求めるなんて思いもしなかったけど、これは切実に行かないでほしいと思った。なんだかよくわからないけど、今は七松先輩二人きりにはなりたくないと思ったんだ。ていうか見捨てるな!暴君を一人で扱える筈ないでしょ!そんなわたしの思いは届かず、立花先輩はクールに髪を流して去って行ってしまった。キィー!あのサラストいつか引きちぎってやるー!




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ