どうにでもなれ

□しち
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薄っすらと目が覚めた。うーん、なんだか目覚めが悪い……あれ?わたしいつ布団に入ったんだっけなあ。もうわかんないや。やっぱり眠い、ともう一度意識を手放そうとしたが人の気配に気付き、目はバッチリと開かれてしまった。眠いのにこればっかりは目が自然と。人影を追って見れば善法寺先輩が薬の仕分け中であろう手を止め、おはよう気分はどう?なんて言って微笑んでいる。なんで善法寺先輩がここに!?思わず布団から飛び起きたが、その反動で額に痛みが走り手を当てる。え、痛い。なにこれ痛いよ。頭を動かせば、ジンと痛みが響く。髪の上からでもわかる。額のすぐ上に瘤ができていた。

なんでたんこぶが…?というかなんでわたし、保健室で寝てるの?

「出血もしていないし、腫れも酷くないからすぐ良くなると思うよ」

額を触り顔を歪めるわたしを見て、善法寺先輩はそう答えてくださった。

「あ…はい、ありがとうございます。」

善法寺先輩はにっこりと頷いて作業に戻る。あ〜善法寺先輩ものすごく穏やかだな〜。忍たまっぽくないなあ。……それは置いといて、一旦整理しよう。なんで瘤作ってんだわたし?それに一番の謎がいつの間にか保健室の布団で寝ていたことだ。確か、裏裏山で七松先輩と崖登りを……あ!!そうか、わたしは目を回して気を失ってしまったんだっけ。七松先輩にほぼ直角の崖を登らされて、上を登る七松先輩が崩した岩の欠片に頭をぶつけたんだ。納得した。目の前に拳くらいの大きさの石が落ちてきた時はほんと死んだかと思ったからね。でも石を避けることができないなんて、ましてや目を回してしまうなんて、わたしもまだまだだなあ。これじゃあ七松先輩に付いていけない。…ん?なんか違うくない?別にわたしは付いて行きたくて付いて行ってるわけじゃないし。連れられてるだけだし。
逆に考えよう、たんこぶだけで済んじゃうなんてわたしはものすごい石頭なんだと。

「それにしても、シズちゃんを抱えた小平太が血相を変えてここに飛び込んでくるもんだから驚いたよ。」
「え?そうなんですか?」

あの七松先輩が血相を変えるほどにわたしは重症だったの?残念ながらわたしはたんこぶひとつで出血もしてないしめちゃめちゃ元気です。それにしても七松先輩のその表情は想像できない。ある意味キャラ崩壊だよ。まあ三割方七松先輩にも責任はあるからね!残りはそんな石ころ避け切れなかったわたしにあるんですが…。朝からわたしをいけどん登山に強行させるなんて七松先輩にも責任があると思うよ。お陰で寝不足だし…。潮江先輩みたいになっちゃうじゃん。ギンギンというほどくのいちにはなりたくないからわたし。


「これを機に小平太も少しは控えてくれるんじゃないかな。」

ね、と首を傾げる善法寺先輩。…あなたそれ絶対自分が可愛いこと知っててやってるでしょ。あざとすぎる。

「そうですね…、そうだといいんですけど…」

とか何とか言って、慣れたという分もあるのだろうけど、七松先輩に振り回されるのも嫌いではない気がしてきた。なんていうか、癖になるというか………うーん…なんだかよくわからないから考えるのはやめた!
とりあえず、お腹が空いたので食堂に行ってみよう。おばちゃんが居ればおばちゃんにお願いしよう。なんなら土下座していい。

使わせてもらった保健室の布団を軽く畳む。善法寺先輩にお礼をして部屋を出ようと扉に手をかけたそのとき、ドドドドドと凄まじい騒音が聞こえた。…こっちに向かってきているその騒音、もとい足音は確実に七松先輩のものだ。なにその足音。忍たまなんだからちょっとは忍んで!!

「シズだ!!」

ダンッ!!と音を立てて開いた扉から七松先輩が思いっきり飛びついてきた。扉壊れちゃうから!それに心なしか七松先輩の声も瘤に響くような…。

「七松先輩、こんにち…」

いつも以上に力を込めて抱きついてくる七松先輩。抱きつくというより完全に抱きしめられている。なんでも全力な七松先輩流石です。息できない。ああ骨折れる。
小平太、シズちゃんが死んじゃう!という善法寺先輩の声が薄っすらと聞こえた。やっと放してくれたと思えば、しっかりしろ、シズ!!と肩を掴まれ揺らされる。それも全力で。コイツわたしを殺しにかかってるわ。


「瘤ができている。痛いか?」

大人しくなった七松先輩はわたしの額に優しく手を当ててる。七松先輩でも優しく触ることはできるんだ。まあ全力で瘤を触られたらいくら先輩でも顔面パンチだ。

「まあ、そりゃ痛いですよ」
「すまん…、私の所為だ。私が責任を取る!」

七松先輩が真面目にわたしのこと思ってくださってただなんて。責任とかなんだかよくわかんないけど。それにたんこぶとかいう大した怪我じゃないのに。でもすごく嬉しい。
真面目な顔の七松先輩を見上げた。こんな顔の七松先輩滅多に見れない気がする。

「先輩の所為じゃありませんし、責任だなんて大げさですよ」
「そうか?」
「そうですよ。でもありがとうございます」
「ならいい」

嬉しいです、と素直に気持ちを告げると七松先輩は少し照れた様な、そんな素振りを見せた。…まあわたしの自惚れかもしれないが。

「よかったらまた、鍛錬に連れて行ってくださいね」
「わかった!毎日鍛錬だ!」

いや、毎日鍛錬はちょっと…。と言えば、いいや、毎日だ!と楽しそうに笑う七松先輩が見れて、ものすごく安心した。
七松先輩が歯を見せて笑うもんだからわたしも釣られて笑う。なんだかすごく幸せを感じてきゅん、とわたしの中で音がした。え?なにきゅんって。何の音だよ!?

「いい所悪いんだけど、ここが保健室なのを忘れないでね?」


完全に善法寺先輩の存在忘れてました。


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主人公の気の失い方がダサい

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