どうにでもなれ

□はち
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七松先輩と縁側に並んで座る。ここは忍たま長屋。これまた七松先輩に連れられ、今日は何をされるだろうと思っていたらなんと夕日ぼっこですよ。はたして就職前の忍たまがこんなことしていていいのだろうか。

隣から視線を感じて振り返れば、夕日が綺麗だな!なんて可愛らしく笑う七松先輩の顔が。そうだ、わたしはこの人のこの顔に恋をしてしまったのだ。
夕日なんか見てないじゃないですか。なんて言わずに、わたしも七松先輩を見つめて「そうですね」そう一言呟く。が、やはり長時間二人で見つめ合うとなるとものすごく恥ずかしい。すぐに目を逸らしてしまう。
夕日の紅がわたしの真っ赤な顔も隠してくれるだろう。…ああ、わたしはいつからこんな乙女になってしまったの!?怖いよー自分が怖いよー。


「先輩」

隣からまだ伝わる視線に気付かない振りをしてわたしはずっと疑問に思っていた事を話す。

「ずっと聞きたかったんですけど、」
「なんだ?」
「なんでわたしを鍛錬に連れて行ってくださったり、その…わたしに構ってくださるんですか?」

ずっとひっかかっていた事をやっと口にすることができた。いや、わたし自身はいつでも言おうと思えば言えたけど、そんな時間さえ与えないのが七松先輩ですよね。
七松先輩を見れば、きょとんとした顔でわたしを見ていた。え、なにその顔。

「全く、シズは鈍いな」
「え…?」

え、なんでや。普通わかんないだろうが。委員会に入れとしつこく誘ってきたと思えば、最近になればそれはぱったりとなくなった。なくなったかと思えば、わたしをあちこちに連れまわす七松先輩。もう何考えてるかわかんないですよ。これでわかったら即くのいち卒業できる気がする。

「それはな、シズ。私がお前を好いているからに決まっている」
「…は、…は?」

え、ええ!?七松先輩わたしを好いてるって言った!?ま、まさか!!いや、でも七松先輩の事だから かわいい後輩 もしくは おもちゃ としての好意だろう。そうだ、絶対にそうだ!相手は忍者の卵だぞ?騙されるなわたし。…いや、でもわたしを騙しても何の得もな…からかってるのか?

「そ、そういうものなんですかね」
「そうだろう?好きな女にはちょっかいを掛けたくなる」

す、好きな女!?やっぱりからからかってるじゃないか!からかわれていると思いながらも顔が熱くなるのを感じた。くぅ〜、わたしのこの恋心は遊ばれていたって事ですね。あ、なんか涙出てきた。

「もう!先輩からかわないでくださいっ!」

涙目になりながら立ち上がり、真っ赤な顔で訴えると七松先輩は少し驚いた顔で見上げる。え、なにその顔。もうわかんないよ!涙を引っ込めようと、瞬きを繰り返す。そんなわたしに七松先輩は近くに寄って、わたしの好きな顔で笑うのだ。その顔をもっと見たくて瞬きを止めれば溢れ出す涙。

「からかってなんかいない。私は本気だぞ?」

そう言って優しく涙を拭われる。あれ…暴君じゃない…。きゅううと締め付けられるような心臓。頭が沸騰しそうだった。わたし、七松先輩の事が本当に大好きなんです。どうしよう。


「シズ、私の恋人になってくれ」


七松先輩からその言葉を聞いた途端、感情がごちゃごちゃになって、わたしはどうしたらいいのかよくわからなくなった。その言葉は夢の様に嬉しいんだけど、なんだか騙されているのではないか、と考えてしまう。わたし以外にも綺麗なくのたまの後輩だって、七松先輩の好きそうなスタイルの先輩だっているのに、なんでわたしなの…?
くのいちの修行をしている身として、ここで簡単に信じて忍者の三禁を犯していいのか、とかわたしを騙したところで何も得ない。わたしをからかっていたとしてもわたしは七松先輩の言葉を受け入れたい、と思っている自分もいる。この顔を信じていいのだろうか。七松先輩を見つめる。

………って、ごちゃごちゃ考えてるけど、わたし今七松先輩に告白されてるんだよね…!そう実感したとたん、顔が熱くなる。ええっと早くなにか言わなくちゃ…。でも何を言えば…。

「あ、え…あの…」

何か言葉を、と口を開けた途端、七松先輩に体を引き寄せられる。

「いいだろう?シズ」

そう言って歯を見せる七松先輩。もう、この人は、強引だ。…ずるい。ずるいよ!!そういうところが七松先輩だから…だから、わたしは、あなたのことが、ほんっとうに…

「好きです!!大好き!!」

溢れる涙をそのままに、七松先輩の背中に腕を回す。見上げると、目の前で咲くように笑う七松先輩に釣られてわたしも頬が緩んだ。この笑顔を信じてみることにする。ああもう細かいことは気にするな!




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