いちばん!

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塹壕があちこちに掘られているこの異様な風景。忍術学園ではあたりまえの光景だ。穴掘り小僧と呼ばれている忍たまが掘ってるらしいけど…あれ?
素通りした塹壕から気配がしたので引き返す。もしかしたら誰か…善法寺先輩が落ちたのかもしれない!

そう思って穴を覗こうと近寄れば、穴からひょこっと少年が顔を出した。あ!この人は平くんの友達の…!
目の前の少年はおやまあなんて言っているが全く感情こもっていない。ばっちりと開かれた大きな目に固まっているわたし。

「こ、こんにちは」

どうも、と無表情で返してくれる少年。この子がかの有名な穴掘り小僧だ。この前食堂で平くんの後ろにいた人!名前しらないけど。


「僕に何か用?千鶴さん」
「え、…え!?」

いきなりの名前呼びに大きな声をだしてしまった。咄嗟に左手で口を塞ぐがそれは今更だ。
な、なんでわたしの名前知ってるの…?わたしこの人と知り合いだったっけ?でもわたしこの人の名前思い出せない!どうしよう、知り合いだったら…!名前覚えてないとか失礼だよね…。もし平くんみたいにプライド高い人だったら…!


「滝夜叉丸が話してたから」
「え、そ、そうですか…」

えっと、それは平くんがわたしの話をしていたものだから名前を知っていた、ということですね?ちょっと嬉しいかも…じゃない。
………え、ちょっと待って?もしかしてこの人もわたしの心の中読んじゃう系男子?

「顔にでてるんだけど」
「!」

思ってることが顔に出るとかくのいちの修行してる身として失格ではないでしょうか…わたし。直す努力をしよう…!


「すいません…」
「謝られても」
「そ、そうですよね…」

相変わらずの無表情にびびっておろおろするわたしは情けないです。でも表情には気をつけてます!!
男の子がわたしを見上げてくるものだから、すこしの沈黙があった。き、気まずい…。


「…なんで敬語?」
「え?…あぁ、初対面だからですよ?」

そうにこにこと言えば

「別にいらない」

敬語、と言って少年は穴の中に入ってしまった。え、ちょっと!待って!
わたしも少年を追うように穴を覗く。結構深かった。


「わたし、くのいち教室の結城千鶴。よろしくね」

改めて穴の上から自己紹介をするんだけど、少年は聞いてるのか聞いてないのやら、手を止めることなく穴掘りを続行していた。穴掘り大好きなんだ…。…うん、夢中になれることがあるってすごいいいことなんだよ。
…じゃなくて、わたしまだ少年の名前知らないんだけど…!


「名前、教えて?」
「…綾部喜八郎」

そう言って見上げてきた綾部くん。綾部くん、よろしくね!と笑って言えば無視された。
うーん、難しい。



 

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