いちばん!
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夕食を食べようと食堂に向かっていた時、浅めの落とし穴から頭が見えているのが目に入った。綾部くんだ…。
綾部くんは何を考えてるかわからないけど、まだ田村くんと斉藤さんに比べたらまだ話しかけやすい部類だ。斉藤さんはくのたまで人気だったし、なによりあのチャラさと年上ということで少し話しかけづらい。田村くんは言うまでもなくアレだし…。わたしと、よろしくしないからな!と言っていたから仕方ない。
穴を覗いて綾部くんになにしてるの、と聞いてみれば
「ボーっとしてる」
で、ですよね、知ってる。とは言えずに苦笑いをする。
平くんは基本的に向こうから話しかけてきてくれる。わたしが言おうとしてることもすぐに理解し気配りもできていてとても付き合いやすい人だ。そこだけだとすっごくモテるんだろうなあって思うんだけど…もうほんと残念なイケメン。この前自分で学園一イケメンといえばこの私!とか言ってたし、まあうんそうかもしれないね、って肯定すれば調子に乗っていたのを思い出した。ああ、何か平くんに会いたくなってきたかも。
「綾部くん、ご飯食べに行かないの?」
綾部くんからの返事はなかった。うーん、相変わらず何を考えてるのかわからない。どこ見てるんだろう?と綾部くんの視線の先を追ってみると、蜻蛉が飛んでた。む、虫見てたんだ…。一緒になって蜻蛉を眺める。
「……」
「僕に何か用?」
綾部くんを見れば、目は蜻蛉を追っていた。何か用かと聞かれて返答に困るわたし。だって特に用ないわけだ。ま、前もこんなことがあったような…。
「何も用はないけど、ただ綾部くんお腹すいてないのかな、って思っただけ」
「ふーん」
そう興味なさそうに言う綾部くんの声に被るように聞こえた平くんの声。
「喜八郎!千鶴もここにいたのか!」
「はい。綾部くんご飯食べに行かないみたいなのでここにいました。」
平くんは綾部くんを探していたみたいだ。同室の好ってやつですか?わたしも平くんに会いたいと思っていたので、平さん!と駆け寄って喜んだ。そんなわたしの顔を見た平くんの顔は何故か不機嫌だった。
「千鶴!」
「はい!」
「先輩には敬語を使え!喜八郎もこうみえて上級生なわけだ」
「す、すいません…」
すいませんじゃない!怒鳴られると癖で謝っちゃうんだけど!ちょっとまって?もしかしなくもだけど、平くんもしかしてわたしを後輩だと思ってる?わたしこう見えて一応平くんと同じ13歳なんだけど…
「あの平さん…」
「千鶴さんは同い年だよ」
彼のあるようでない、ないようである無駄に高いプライドを傷つけないようどう伝えようかと考えていると、あっさりと綾部くんが口にする。
焦って平くんの方を見ると平くんもわたしを見ていて、目を見開いて驚いていた。え、そこまで驚く?
確かに身長もあまり高くないし童顔だしいろいろ無いけど…え、わたしそんなに年下に見えるの…?でもずっと平くんに敬語加えて平さん呼びだったのも関係してるのかもしれないし…見た目だけの問題ではないはず……!
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