いちばん!

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最近平くんの様子がおかしい。いや、平くんは前からいろいろおかしいんだけど。…そうじゃなくって!なんだか、わたしと話すときに限って眉を寄せ顔を歪ませる平くん。その表情の変化は微かなんだけど、気づいてしまったわたし。表情豊かな…いわゆるアホ面な奴が人の表情に敏感なんて笑っちゃう話ですよね、はは


「そんなこと学年一成績優秀のこの私にかかればいとも容易いこと!」
「さすがですね」
「……」
「…あれ?終わりですか?」

あぁ、と頷いた平くんは少し元気がなかった。誰だコイツ。平くんが平くんじゃない…!どうしちゃったの!?

「た、たた平さん!どうしちゃったんですか?お腹空いたんですか?」

平くんが元気ないのってもしかしてわたしが原因だったりする!?でも全くといっていいほど心当たりが無い。無自覚が一番酷いんですよ、千鶴さん!


「千鶴」
「はい」

おろおろと平くんの顔を見ると、いつもと違って真剣な顔つきでじ、っとわたしの目を見ていた。誰だこれ。それにつられてわたしも背筋をピンと伸ばす。な、なんだこの緊張感…。


「私は…私は千鶴の事を何も知らなかった」
「はい」
「知ろうと思えば知れたのに、わたしは知ろうと思わなかった!」
「は、はぁ…」

それってただわたしに興味がなかったからですよね、別に気にしなくてもいいのに。…自分で言っててすごく哀しいけど。


「ファンは大切にしたいのだ!」

そう言って平くんはわたしの手を握ってきた。平くんやっぱり睫長いなあ…。じゃなくて!近いんだってば!流石にあの平くんでも、美形なので照れる。

「今からでも知っていってもらいたいです。わたしも平くんの事もっと知りたいです!」

照れながらそういうと余計に寄ってきた平くん。ぐあああ近い!!少し体を逸らす。


「では!卵料理で何が好きだ?」
「ああ、ええっとゆで卵が好きです!」

平くんの突然の謎な質問に即答してしまった。平くんは微笑したまま固まっていた。…何か違った答えをしてしまったのだろうか…。

「そうか、なるほど…。ちなみに私は目玉焼きが好きだ」
「そうなんすか!おいしいですもんね、目玉焼き!わたしは塩派です!」

「…わかったぞ、千鶴!」

こ、こんどはなんだよ。めんどくせえなコイツ。まあ前々からこんな人だったけどさ。めんどくさいけど嫌いにはなれないんだなあ。


「千鶴、喜八郎だけではなく、私にも気楽に話してほしい!」
「え?」
「な、仲良くなったのだから…敬語はちょっと余所余所しくないか?」
「そうですね…」

このわたしが気楽に話していいのだろうか…。平くんのプライドが許さないだろうと今まで敬語で話してきたけど。本人がいいって言ってるしいいか。わたしも平くんともっと仲良くなりたいと思ってなくもないし…!


「滝夜叉丸、と呼んでもいいんだぞ?」
「うん…、わかった!滝夜叉丸くんって呼ぶね!」


嬉しそうに笑う平くんを近くで見て顔が熱くなった。……一体いつまでこの体制なのだろうか。




 

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