いちばん!

□1
1ページ/1ページ



はあ、なんでわたしが…。なんて愚痴をたれつつ頼まれた事をこなしたわたし。完全に雑用ですよね、という事でもシナ先生からの頼みごとなら断れない。でも暇だったから丁度よかった、そう思うことにしよう。
長屋に向かって歩いていると、目の前を小さな黒い何かが飛んできたのが見えたので、それを咄嗟に避ける。そこ時、白い何かがすごい速さで顔面スレスレを通過して行った。小さな黒い何かは蜂だった。蜂はその白い物体の風圧でフラフラとしていたが、無事どこかに飛んで行った。
それよりも…ぎぎぎ、とその白い何かを見る。バ、バレーボール…!?バウンドしそこねたであろうそこの地面を見れば埃を立てて抉れていた。それを見てサッと血の気が引いていく。ぎゃああああ!これに当たってたと思うと…!!誰だよこれ投げた奴!!!先生に言いつけてやる!

と、周りを見渡せば向こうのほうからドドドド、と土煙とともに何かがやってくるのが見えた。なにあれ!?
それは一瞬にしてわたしの目の前に現れた。

「すまんすまん〜!」
「ひっ」

思わず悲鳴が出てしまった。失礼なやつだなーと笑いながらバレーボールを拾っているヤツ。ていうかボール無事だったんだ…すごい。
その人はボールを拾ってこっちに寄ってきた。なんとも言いがたい獣的なオーラを纏っていて、びびったわたしは体が固まる。まさに蛇に睨まれた蛙の如く。

善法寺先輩と中在家先輩と同じ色の忍装束ということは、六年生…!その事実にさらに血の気がひいた。


「ご、ごめんなさい!」

心の中だけど先生にチクるとかヤツとか獣とか言ってごめんなさい!!
先輩は大きな声で笑いながら腕をわたしの方へと伸ばしてくる。咄嗟に避けてしまったわたしを見て先輩はお、と驚いていた。おおおおお怒らせてしまった…!?
その先輩の顔色を伺うと、にかっと笑顔を見せてきた。あれ…?そんなに悪い人じゃ……な、中在家先輩みたいな人ですかね…!怒ると笑うといった様な!

一瞬わたしが油断したその隙にその先輩は肩を組んできた。その肩に乗せてきた腕の衝撃でう、っとなりつつなんとか耐える。

捕 ま っ た


「お前、今暇か?」

ちょっと面かせよ?ちょっと裏庭こいよ?みたいな?裏裏山こいよ?みたいな?ああああ!サエちゃんや綾部くんみたいに心の中読まれたのかな…!今から締められるんですね、わかります。あああああ死亡フラグビンビンに立っちゃった!
でも六年生から逃げられるはずないし…、断ったところで何されるか…!


「は、はい…」
「じゃあ私とバレーをしよう」
「はい…え?バレーですか?」

そうだ!いけいけどんどーん!なんて言ってぎちぎちと肩を組んでくる先輩。な、なんだバレーをするのにメンバー集めか………抉れた地面が目に入る。……ちょっと待って…?え?死亡フラグ回避したと思ったけどやっぱり?…いや、いくらなんでも後輩だしわたしも一応女子だし手加減はしてくれるだろう。


「一人でなに考えてるんだ?」
「え?」
「面白い顔してたぞ!」

面白い顔って失礼な…!先輩の顔を見るとにこにこといい笑顔で笑っていたので悪気はなさそうだ。この人に着いていける気がしない…。


「やるのか?」
「や、やります」
「よし、じゃいけいけどんどんでバレーをするぞー!」
「耳が痛い…ていうか近いです先輩。」

そうか?なんていって更に顔を近づけてきた。やめてえ!なに!?からかわれてるのか、わたし!?
わたしはそっと苦手リストに名も知らない先輩を追加したのだった。




 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ