いちばん!

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裏裏裏山からの往復で学園に戻る最中。またしてもあっという間において行かれてしまったわたしです。ほんと泣きたいです。
だけど帰りは滝夜叉丸くんと一緒。滝夜叉丸くんが気を使ってわたしと同じペースで前を走ってくれてるのだ。わたしなんて放っておけばマラソンなんて早く終わらせることができるはず。部屋に戻って休むことだってできるのに滝夜叉丸くんなんで?でも滝夜叉丸くんになんで、と聞いてもわたしが迷子になるだろうから、と答えるだろう。ここは滝夜叉丸くんに甘えることにする。
滝夜叉丸くんの後姿にガンを飛ばすように見つめて走る。もう迷惑かけちゃってるけど、遅れないよう頑張ろう!

なんて意気込んでいたのは数秒前。わたしはもう死ぬ思いだった。滝夜叉丸くんとの距離が徐々に開いてゆく。こんなことならもっと体力つけとけばよかった…!くそお!
足が止まってしまった。喉が渇いて咳き込んでしまう。ただでさえ息が荒いままなのにそれに加えて咳き込むなんてわたし死ぬ気か。こんなんじゃ進級できる気がしない。
そんなわたしに滝夜叉丸くんが振り返り大丈夫か、と声を掛けてきてくれた。が、わたしは声も出す余裕もない。とりあえず生きているので必死に頷く。な、情けない…。


「わたし、…」
「なんだ?」
「遅いから、先に行って…!」


駆け寄ってきてくれた滝夜叉丸くんにそう告げたのだが、滝夜叉丸くんは何も発さずにその場を動かなかった。え?どうした?
滝夜叉丸くんを見上げると、背中をポンポンと撫でてくれた。ナルシストなのに。普段自惚れ屋の眉毛なのに優しい!!

少し落ち着き、滝夜叉丸くんにお礼を言う。気にするな、ってお前男前か!…滝夜叉丸くんは男前だった。


「あともう少しだ、頑張れるか?」
「うん、全然いけるよ!」

さっきまで虫の息だったヤツが力瘤を作る姿はなんと滑稽だろう。だけど滝夜叉丸くんは微笑んでわたしの手を取ってきた。ふわり、と石鹸と汗の匂いがした。え、ちょっと今ドキッとしちゃったんだけど…。あああああこんなときにわたしの頬赤く染まるなよお!

滝夜叉丸くんに手を引かれて、二人でゆっくり学園に戻った。学園につくと、七松先輩が千鶴もまだまだだなあ!と背中をバシバシ叩いてきた。死ぬかと思った。ちょっとは手加減という言葉を知って欲しいとわたしは思います!体育委員長!汗を手ぬぐいでふき取りながら、七松先輩を睨むのだが、暴君先輩には効果いまひとつ。
滝夜叉丸くんは汗と風でボサボサになったわたしの髪の毛を梳いてくれていた。滝夜叉丸くん女子力高すぎる。なんか滝夜叉丸くんにはお世話になってばかりだなあ…こんど何かお礼をしよう。


「それじゃあ私は裏裏山までもう一度行って来る!」

わたしたちが何か言葉を発する前に走り去って言った七松先輩。え、あの人なんなの?なにものなの?す、すごすぎる…。わたしが一生鍛えたってああはなれない気がする。


「髪整えてくれてありがとう、滝夜叉丸くん」
「まあ、何をしても美しく完璧なこの滝夜叉丸に任せておけば千鶴の髪くらい…」
「うん。性格がコレじゃなかったら完璧だもんね、すごいや!」


そうだろうそうだろう!もっと褒めてくれてもいいんだぞ!とか言ってる滝夜叉丸くんの後ろから何か近づいてくる。ボサボサ頭が見えた。………も、もしかしてあれ七松先輩!?そのままわたしたちに突進してきそうな勢いだ。


「ただいま!」
「お、おかえりなさい…も、もう行ってきたんですか!?」
「ああ!」
「この人…人間じゃない…」
「ま、これが七松先輩ですからね」


「人間とか人間じゃないとか、こまかいことは気にするな!」


な に 言 っ て ん だ コ イ ツ





 

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