いちばん!

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今日は滝夜叉丸くんと町に行く日。この前のお礼をしようと誘ったわけだが。どんなお礼がいいかな〜と昼休みも寝る前も考えて考えて考えた結果何も思いつかなかった。うーーん、お蕎麦を奢る!……滝夜叉丸くんは別に食べ物もらっても嬉しくなさそう。折角だから私生活でも活用できて形残る物がいいか…うーん…悩む。
滝夜叉丸くんって何が好き?……やっぱり自分ですよね。それか輪子ちゃんか。やっぱり無難に結い紐とかどうだろう?滝夜叉丸くんの髪さらさらだし、似合う結い紐を捜して贈り物しようかな。
一人頭の中で巡らせていたら、厠に行っていたサエちゃんが部屋に帰ってきた。


「あ、サエちゃん!わたし今日町に行ってくるんだけど、何か買ってきて欲しいものとかある?」
「特にないけど……一人で行くの…?」

同情の目を向けてきたサエちゃん。一人で行く訳じゃないから!友達少ないけど、別にいないわけじゃないから!

「違うよ!滝夜叉丸くんと!」
「え!?滝夜叉丸と!?」

どういうことよ、千鶴ー!と肩を掴んで激しく揺すぶってくるサエちゃん。ちょ、やめ…!酔う酔う!ていうかそんなに驚くこと?さすがの滝夜叉丸くんも町くらいには行くだろうて。

「どういうことって、そのままの意味なんですけど…」
「滝夜叉丸に誘われたの?」
「え?ううん、わたしが誘ったけど…なにか?」

積極的なのはいいことよ!なんて言うサエちゃんは謎に嬉しそうだ。もしかしてサエちゃん、人付き合いが苦手なわたしの心配をしてくれてたのかな、サエちゃんってやっぱり優しい。いい友達を持ててよかった!

「っていうか、あんたそんな格好で行く気!?バッカじゃない!?」

今関心してたとこなのに!馬鹿って酷い!そんな格好っていつも着てる小袖なんですけど!しかもこれ結構気に入ってるやつなのに!酷いよ!
泣き真似をしたら、そういうのいいから、とか言われた。わたしの繊細な心は傷つきました。


「ほら!髪セットしてあげるから。こっち来なさい」
「髪?」

サエちゃんに背を向けて座らされた。え、何で髪?

「別にいいよ!」
「駄目!それじゃあいつもと一緒じゃない!」
「色の授業じゃあるまいし、別にいつもと一緒でよくない?」

ていうかサエちゃんさりげなくいつものわたしの髪型を馬鹿にしてない?気のせい?
いいから、とわたしはサエちゃんにされるがままだった。サエちゃんお洒落さんだし器用だからいいか、任せよう!ではわたしはサエちゃんの腕を信じて。

あまり得意ではない化粧も、一生懸命したというのにサエちゃんは容赦なく化粧を落とす。

「あんた適当にやりすぎ。」
「別に適当にやったつもりないんだけど…」

美人なサエちゃんはやはり化粧も上手だった。う…何かすごく傷つく…。心痛めるわたしに、ほら教えてあげるから、とやっぱり優しいサエちゃんそんな君が好きです。サエちゃんを見習ってもっと女を磨くと決めたわたしだった。


「できたわ」

ほら、と鏡を渡され覗いてみる。そこに映っていたのはいつもと印象が全く違うわたしだった。か、かわいくなってる……

「おぉ…さすがサエちゃん!」
「流石に可愛くなったわね」
「流石に……、いつもは可愛くないってこと?」
「自惚れてんじゃないわよ!滝夜叉丸かあんたは」

ああ!完全に無意識だった!滝夜叉丸くんと居るから滝夜叉丸くんに似てきたのかな……それなら頭も良くなってる筈なんだけど!わたしアホなままなんですけど!
思わず照れて、えへ、と笑えば突然サエちゃんが抱きついてきた。ななななななななな何!?はっ倒したいほどわたしが気持ち悪かった!?なぜそんなに優しく抱きしめるのサエちゃんんんんんん!さすがにびっくりするわ!!

「サエちゃん、どうしたの!?…お腹痛いとか?」
「なんでじゃい」

そう言って離れるサエちゃん。いや、こっちの台詞なんですけど。いつもツンツンなあのサエちゃんがなんでじゃいなんですけど。咄嗟の事ですごく動揺してしまった。くのいちはいつも冷静に!


「今の千鶴は本当にかわいい」
「え、ええあああうん…ありがとう!これも全部サエちゃんのおかげだよ!」
「ふふ、自信持ってがんばるのよ!」
「うん!!…って!別に色の授業じゃないんだから!」

そう言ったらため息をつかれた。この調子じゃ駄目ね、って聞こえましたけど今。どういうことです?これがわたしのいつもの調子なんですけど?いつものわたしを馬鹿にしてます?




 

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