いちばん!

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「千鶴、何を買いたいのだ?」

町に着いたわたしたち。滝夜叉丸くんに町の入り口でそう聞かれた。そういえば、誘うときに欲しいものがあるからって言った様な…や、やばい…!何も考えてない!

「えーっと…なんだったっけー………?」

そうとぼけるわたしに滝夜叉丸くんはじ、とわたしの答えを待っている。うう…欲しいものなんてないんだ!欲がないのにこんなに困るなんてね。滝夜叉丸くんのきらきらした瞳に耐えられず、目を逸らす。そこで簪屋さんが目に入った。これだ!

「あ、ああ!思い出した!簪だ!」
「簪か!」
「うんうん、かわいい簪が欲しくって!」


ついさっきまでわたしが見ていた簪屋さんに寄ろう、といってきた滝夜叉丸くん。そんなに簪なんて必要ないけど、と思ってた。だがやはり色んなかわいい簪を見てると欲しくなる。

「うーん…」
「千鶴!」

これはどうだ?と滝夜叉丸くんが手に持っている簪を差し出してきた。紅葉が模られている茜色の簪だった。かわいい!…って、あれ!?なんか違うくない?滝夜叉丸くんってもっと派手な時代を先取りしている様な物を持ってくると思ってたけど…。あれ?わたしがそう思ってただけなのか?

「私ならもっと派手な物がいいのだが…千鶴が付けるのだろう?」
「え、うん」
「千鶴にはこれが似合うと思ったのだが…」

だ、誰!?この滝夜叉丸くんは一体誰!?いつもと違う滝夜叉丸くんに戸惑わないわけがない!
でもわたしの事を想って選んでくれた、それだけで嬉しい。

「ありがとう!わたし、これがいい!」

そう言うと、滝夜叉丸くんは奥に行って主人と…ちょっと待った!何故君が買う!?

「滝夜叉丸くん!?」
「折角だから私が買う」
「え、ええ!?」
「私からの贈り物にさせてくれ」
「え……う、うん、ありがとう」

お礼する意味なくなるじゃないかああああ!って思ったけど、滝夜叉丸くんからの贈り物、という事が嬉しくて思わず照れてしまう。た、滝夜叉丸くんは一体わたしに何を求めているんだ…!金か!?そんなわけないだろうが、わたしは混乱していた。
簪屋のご主人に「可愛い彼女さんだねえ、安くしておくよ」と言われ更に顔を赤くするわたしでした。ぎゃあああ!年下…妹に見られなかったああ!…じゃなくて、滝夜叉丸くんと恋仲に見られた…!?傍からみると恋仲同士に見えるのだろうか…?わたしじゃ滝夜叉丸くんと釣り合わないでしょ?…って何でわたしこんなこと考えてるんだ。これじゃあわたしが滝夜叉丸くんと恋仲になりたいみたいじゃない。
パッパッと頭の中の邪念を払う。




 

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