【デッドマン・ワンダーランド】夢小説(長編)
□高嶺の花に祝福を5
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時刻は夜8時半をまわった。
「さぁーて…死肉祭まであと半時間ってとこか」
弦角はおもむろに立ち上がった。
同じ部屋にはイスに座らされ、背もたれに手を縛られたリオの姿がある。
「んじゃ、オレはオウルの楽しい楽しい試合を見てくるぜ。そのあとプロモーターにお前を差し出す。せいぜい楽しみにしてろよ」
そういい残して部屋を出て行った。
リオには意識があった。しかしどうにもできなかった。
(この縄を解くくらいならできる…けど、そのあとはせいぜい自力で歩くのがやっとだ…)
こんなに重傷を負ったのは久しぶりだ。
リオは改めてアンダーテイカーの強さを身をもって味わった。
あんなものが試合に介入したら、さすがの凪でも歯が立たないかもしれない。
(早く、行かなきゃ…)
気持ちばかりが焦る。
(前に…進まなきゃ…!!)
ぎちぎちに縛られた手首の縄をなんとか解き、すぐに立ち上がる。
しかしそれがいけなかった。とたんに眩暈がしたと思ったら、体は足元からバランスを崩した。
「あぅっ……」
ドサッ。
床に倒れた。そう思った。しかし感触がおかしい。
つむっていた目をそうっと開けてみる。
「……千地さん!?」
そう。
崩れ落ちる寸前の体を支えてくれたのは千地だった。
「……大丈夫かよ」
「…あ、ありがとうございます」
やんわりと体をおして距離をとる。腰に手を回されるのはさすがに恥ずかしい。
それは千地も同じだったようで、赤らめた顔をふと逸らした。
「千地さん、どうしてここがわかったんですか?」
「ああ…オウルが以前見回りの看守の居場所をいくつか教えてくれたんで、そいつらに聞いて回った」
「脅したんですね…」
「…で、アンダーテイカーは?」
「オウルさんの試合を見に行きました。すぐに追いましょう」
「当たり前だ。こっちはズッパシゲージ溜まりまくってんぜ!」
と千地が意気込んだところで、リオはまた足をふらつかせた。
それをすかさず千地が支える。
「…すみません」
「いや…」
気まずい沈黙がおりる。
事態は緊迫していても、リオは走ることさえできない。悔しさに唇を噛んだ。
そのときだった。
「…千地さん!?」
「じっとしてろ」
膝裏と背中に逞しい腕が回る。
リオはこれを知っている。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「お、下ろしてくださいよ…!」
「黙ってろ。…あと、こっちみんな」
見るなといわれると気になってしまうのが人の性だ。
思いのほか勢いよく走り出したため振り落とされないように首に両腕を回すと、彼のリンゴのように真っ赤になった肌の一部が見えた。
かわいい、なんて思ったのは内緒である。
もっとも、その直後に弦角の部屋のドアがざっくりと壊されていたのを見てロマンチックな気分も一瞬にして吹き飛んだわけだが。