【黒子のバスケ】夢小説(中編)

□王子様は居候中2 氷室SIDE
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もらっていた合鍵で家に入ると、木下さんがキッチンで料理をしていた。

「おかえりなさい、氷室さん」

オープンキッチンなのでリビングにいても姿がよく見える。
エプロン姿の彼女を複雑な気持ちで見つめていると、それに気づいたのか、わざわざ料理の手を止めてこちらまでやってきた。

「よかった。この家にはもう帰ってこないかなって心配してたんです」

にっこり言われ、返答に困る。
彼女がオレを必要とする理由がわからない。

「君はどうしてそこまでオレにいてほしいんだ…?」

尋ねると、彼女は考えこむように視線を宙にめぐらせた。

「…その理由は、」

彼女はオレから一歩だけ距離をとった。
なんの暗示だろう。

「氷室さんがもとの家を出た理由を話してくれたらお話しますよ」

そんな彼女の含み笑いを見て、ああこんな顔もするんだ、と新鮮味を感じた。
質問の内容よりそっちに注目してしまうあたり、彼女はどこか人の目を奪う力を持っている気がする。

結局夕飯の席でオレは家を出た理由を話すことにした。
情けない話ではあるが、隠しておくようなものでもなかったからだ。

「…ルームシェアをしている同居人とケンカしたんだ。アイツはしばらく一人で頭を冷やしたほうがいい。…それで出て行ったんだよ」
「そうだったんですか…」

彼女はとても素直にオレの話を聞いてくれた。
その目はケンカなんてガキくさいと呆れるでもなく、いい年して家出なんてと笑うでもなく、ただ真剣そのものだった。
そいつとの出会いやケンカの原因なんかも職質のように聞いてきたけど、それは答えなかった。

そうして彼女の番になった。
オレを家に上げる理由をきくと、彼女はやはり視線をどこかへやって、しばらく彷徨わせたあと、最後にオレに焦点を当ててからこういった。

「氷室さんが困っているようだったからです」
「……えっ?」

さすがのオレもこの答えにはポーカーフェイスを崩さずにはいられなかった。

「えっそれだけ?それだけでオレを家に泊まらせるの?」
「そうですよ」
「嘘だろ?だってオレと木下さんなんて……」

そこまで怒涛の勢いで言いかけて、はたと止まった。
そしてその続きを言おうか言うまいか悩んで、やはり言うことに決めた。
口を開いた矢先…

「つい数週間前に会ったばかりですもんね」

…彼女が代弁した。
オレは開いた口の引っ込みがつかず、何か続きをしゃべろうとしたが、結局何も思いつかなくて閉じた。

「でも、わたし知ってます」

彼女はにっこりと笑った。

「氷室さんが、悪い人じゃないってこと」
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