八犬伝
□君がいなくなる夢を
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夢を見た。
怖い夢を。
信乃が、俺から離れていく夢を。
遠ざかっていく小さな背中を、何も出来ない自分はただ、呆然と突っ立っている夢。
手も、足も、声すらも出ない。
どうか行かないでくれ。
喉の奥が乾いて痛い。
何か大きな塊が喉の奥に支えて息が出来ない。
信乃…!
し…の…!!
* * *
「…八!」
「げ……ぱち!!」
聞き慣れた声がどこからか聞こえてくる。
「し…の…?」
意識が覚醒しきらなくても、はっきりとわかる声の主。
だがどうして信乃が自分の前にいるのだろう?
「おい、お前大丈夫か!?」
現八が起き上がるや否や、あろうことか信乃が顔をのぞき込んで来るではないか。
大きな瞳に心配の色を浮かべ、『大丈夫か?』
だなんて。
「何故ここに…?」
思った通りを口にすると、
「お前、うなされてたんだぜ。」
と、信乃は困ったような顔をした。
「あぁ、そうだった…」
そうだった、俺は信乃がいなくなる夢を見たんだ。
「俺はどこにも行かねーよ。」
不意に飛び込んできたその声は、普段とは違い、とても優しいものだった。
ねくすと→あとがき+おまけ。