電脳少女と情報屋。

□_*一生
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それは、いつもと同じ風景だった。
首無しライダーは街を彷徨い、白衣の男はその帰りを待ち、男子高校生は非日常を渇望し、喧嘩人形は理性に反して力のメーターを振り切り、黒人の巨体はチラシを配り――情報屋は美麗なその顔をコンピュータの画面に反射させる。
平穏な日常を描き続けるその裏側で『それ』が逃走劇を繰り広げていたのを知らずに。
リアルとバーチャルの境界線が曖昧になった池袋という街は、『それ』を何食わぬ顔で隠していた。

♂♀


最初に聞こえてきたのは、何かの声だった。

「やっと完成か」
「これで小さな国に過ぎなかった我が国は世界の支配者になれる」
「アメリカもヨーロッパもジャパンも、『これ』には恐れいののくだろう」
「ほら――目を覚ますんだ、I-R01。
お姉さんはもう起きているぞ」

アイアールゼロイチ。
それが私の名前?

「おかしいな。起動してもおかしくないんだが」

この人達が、自分の、親――

"おはよう、マスター?"

「ああ、やっと目が覚めたか」

"あはは、私に眼球は存在しないの知ってるくせに。酷い冗談だ"

『頭』をくるくると動かしながら、『それ』は身体のどこかで笑った。

「……素晴らしい!」

"意味わかんないよ?マスター達は変人なの?"

「なんだと……ッ⁉︎」

「いやいや、変人でも構わないさ!
そう感じることこそ君に人格があるということの証明なのだから!」

まさしく『それ』が変人だと言った『マスター』はキラキラと目を輝かせながら『それ』に力強く言葉を紡ぐ。
それを見て、他の『マスター』は怪訝そうに首を傾げた。

「プログラムがそう判断したのでは?」

「では聞くが、誰かI-R01に冗談を教えたか?
この口調のプログラムを作ったのか?」

「……」

「それに、君は今自分には眼球が無いと言った!」

"事実でしょ?"

「君は――君は――自分が何であるかを理解しているんだな?」

――ああ、今更何を言ってるんだろう。

"私は――『コンピュータ』"

「そう。君はコンピュータ。
私達は『人間』もしくは『ヒト』だ」

三人の『人間』を見ながら、『それ』は思った。
『人間』とはなんて真っ白で、真っ黒なのだろうか、と。
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