電脳少女と情報屋。

□_*私称
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「ああ、波江さんじゃない。おはよう」

臨也の声に波江は表情を変えずデスクの前に立つ。

「挨拶は結構だわ。
ほら、今日の依頼文と貴方に頼まれてた書類」

「ああ、忘れてた。
んー、しかしあれだねえ。ここんところさあ、俺のところにも随分物騒な依頼が舞い込んでくるもんだよ」

「人が苦労して作った資料を……忘れてたですって?
いいんじゃない、どこで貴方がのたれ死のうが知らないわ」

『っていうか自業自得ですよね!』

「……誰?」

恒例となってきつつあるスピーカーからの少女の声に波江は怪訝そうな顔で辺りを見回した。
一方で臨也は波江のその反応に満足しながら――言いつけを破った『彼女』を睨み付けた。

「口を出さない約束だろ?」

『いえす、マスター。
でもほら、私、口無いし。
音声は出ても口は出ないからオールオッケー!』

「……一回回路を点検した方が良さそうだな」

『点検……⁉︎』

ひ、とご丁寧に息を飲む音が聞こえ、白い箱がガタガタと震え出した。
それを見て真の意味で息を飲むことになったのはもちろん波江である。

「何よ、そのパソコン……」

「意思を持ったパソコン。信じるかい?」

「へえ……」

それで満足したのか、今度はなお震えているパソコン――愛里に近付く。

「はじめまして、でいいのかしら」

『検査……解体……オイル……って、え?
は、はじめまして!波江さん……ああ、矢霧波江さんですね。
マスターの……奥さん?』

「仕事仲間よ。今後一切間違わないで貰える?」

『失礼しました!メモリに目立つよう保存させてもらいますから!』

「お願いね。
臨也のデータから私の本名は分かるだろうけど、私の間柄はパソコンに入れてるわけないものね、気にしてないわ」

『お姉さん頭良いですね!
助かるよ、その通りですから!』

「あら、頭の良さなんてあなたの足元にも及ばないでしょうけどね。
それよりも、ねえ、あなた……もしかして、アディメ共和国生まれじゃない?」

『……なんで知ってるんですか?
あ、うあ……良いです、言わないで下さい』

「……やっぱり、自覚はあるのね?」

『はい。……そうですよね、お姉さんデュラハンの頭とか研究する会社に居たんですもんね』

意味の分からない会話を続ける一人と一つに、我慢出来なくなったかのように臨也が大きく脚を組んだ。

「何の話だい?」

「女同士の話よ」
『世間話だよ』

「……」

その奇妙な会話はそれきり打ち切られ、いつもの臨也と波江の日常に愛里は溶け込むことになった。

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