…would,
□第三章
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新宿某所 朝
どこかで鳥の鳴く声を聴きながら、私は目を覚ました。
そう、やっぱり夢だったのだ。
少し残念に思いながら身体を起こすと、そこは知らない空間だった。
落ち着いた基調の高そうな家具が置かれた寝室で。
「あ……そっか、そうだった」
臨也さんが提示した宿泊場所というのは、何の事は無い。
自分のマンションだったのだ。
見ず知らずの私なんかを簡単に部屋にあげていいのだろうかと、この人の部屋に簡単にあがっても大丈夫なのかと、様々な思いが駆け巡ったが、目の前に寝泊まり出来る場所を用意されたら疲れた身体は正直だった。
働かない頭で気が付いたら眠っていたのだ。
だんだん覚醒してきた頭を軽く振って、ロフトを降りていった。
――ああ、制服がくしゃくしゃ。
「ああ、起きたんだ。おはよう、美琴ちゃん?」
「おはよう、ございます」
降りるとそこには臨也さんがフレンチトーストを黒いテーブルに置いているところだった。
「ほら、朝御飯」
「うわぁ……いただきます」
ソファに座り、甘い香りがするフレンチトーストをほおばった。
――そういえば臨也さんはどこで寝たんだろう。
――なんかものすごく悪いことをしちゃった。
ベッドを占領するなんておこがましいにも程がある。
昨日の自分に腹を立てながら無言でトーストを食べていると、面白そうな声が掛かった。
「どうしたの、眉間にしわなんか寄せて。甘いの嫌いってわけでもなさそうだけど?」
「ああ、えっと。フレンチトーストはすっごい美味しいです。でも……本当、お世話になりました。ベッドまで使っちゃって」
「礼儀正しいんだね」
臨也さんは感心するような、しかしどこか馬鹿にしたような声音でそう言うと、くすりと笑いながら続けた。
「でも大丈夫、俺昨日はどうせ忙しくて寝る暇無かったし」
「仕事ですか?」
「ううん?趣味かな。……君のことを、ちょっとね」
「私?」
趣味……って人間観察ってことかな。
私を?観察?……え?
「君に寝る場所を提供する代わりってわけでもないんだけど、ちょっと君の事を調べさせて貰ってたんだ。制服の胸ポケットに入ってる生徒証をちょっと借りたりしてね。そしたらさあ、びっくりするじゃないか」
「……」
嫌な予感しかしない。
、、、、、、、、
「君には知人も戸籍も無いんだからさ!ねえ、どういうことなのかな?地下生活?まさか。そんな特殊な人間が十数年間も生きてきて、俺が分からないわけがない」
楽しそうに楽しそうに笑う顔がずいっとこちらに近付いた。
「例えばその制服」
「制服……?」
「コスプレにしちゃ地味だし、校章もあるだろう?
なのにそんな制服着た、そんな校章の学校なんて無いんだ」
あ、ここの世界に東野高校は無いんだ……。
まあ、元いた世界に来良学園はないわけだし、当たり前と言えば当たり前であるとも言える。
「ついでに、生徒証に書いてある家の住所だけど、それっぽい場所には公園があるだけだったよ。昨日君がどこに帰ろうとしていたのかは知らないけど」
家も……ない。
一晩明けて、私の学校も家も存在しないとなると、もういつまでもここは夢の中の世界なのだと言い訳なんて出来なくなってきた。
もう既に、それは現実逃避である。
一体なにを間違ってこの世界に来ちゃったのかは分からないけれど。