…would,

□第四章
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そこまで言って、臨也さんは踵でくるりと半回転して私の横に腰を下ろした。

「君の素性とその馬鹿みたいな顔がさ、どうしても繋がらないっていうのが気になるかな。普通戸籍も無いような日陰暮らしの人間がそんなに平和そうな顔して生きていけないと思うよ?
その矛盾こそ本来ならば歓迎すべき特殊なのかもしれないが、俺はそんな君を果たして人間と呼ぶべきなのか……愛すべき対象とすべきなのか、判断に迷うんだよねえ」

すらすらと言葉を連ねながら楽しそうに私を見つめて。

「別にだからってどうこうするわけじゃあない。ただ興味があるのは事実かな。君の生態に、ね。生態って言うよりむしろ素性かな。どちらにせよ、美琴ちゃんって存在そのものに興味があるだけだから、勘違いしないでね?その平和ぼけした雰囲気と怪しい素性とが重なり合わされば、それで俺は満足だし案外誰でもいいのかも知れないね。だけどまあ、そんな人間がそうそういないのも事実だし、同じ人間がいないからこそ人間というものは見てて本当に飽きない。……ちょっと、聞いてる?」

起きてから何時間か経ってるというものの、午前からこの長い中二病話は辛い。

「一応聞いてます。人間が好きなんですね」
「なにその棒読み。朝のお礼は色んな感情が混ざった感じで良かったのに。あ、そうそう、君は帰るところはあるの?生徒証に書かれた住所の他に行くあてはあるのかな」
「……無いんです、あの」
「うん、そうだね。しばらくここに泊まればいいよ。それを言おうと思ってたんだった」

忘れるところだったというように軽く肩を竦ませる臨也さんの言葉に、ほっと胸をなで下ろした。
土下座でもなんでもしてお願いしようかと思っていたところだったから、とりあえず寝泊まりできるところが見つかって安心する。

「助かります……あの、家事とかは全部しますので!あと、できることはなんでもしますから。寝るのもソファで十分ですし……よろしくお願いします」
「ああ、家事はいいね、お願いするよ。あとはそうだね……ちょっと仕事をお願いすると思うけど、大丈夫かい?」
「もちろんです!」

出来るだけ忙しい方がいい。
それくらいでないとこんな高級なマンションに泊まらせてもらう割に合わないのだ。
仕事というのがいまいちピンときてはいないが、できる限りで頑張るしかないだろう。

「そうか、助かるよ。家事っていうのは朝昼晩の食事と洗濯と掃除ね。あとでちゃんと説明するけど、仕事机は一切触らないで。机から向こうの掃除もいらない。あ、あと観葉植物の世話もお願いね」
「分かりました!」

独り暮らしの経験がない私にどこまでできるかはわからないが、とりあえずやっていくしかない。
むしろ気になるのは仕事の手伝いのほうだったが、臨也さんは立ち上がるとほら、と私に指示をした。

「じゃあその皿洗ったら池袋に出るから支度して」
「街に出るんですか、私も?」
「せっかくだからこの辺を案内しようかと思ってね。俺の代わりに仕事の現地に行ってもらうこととかあると思うから」

もう間違いを起こさないように、そして確認の意味も込めて私は臨也さんを見上げて問いかけた。

「臨也さんの仕事って、どんなものなんですか?」
「そうだね、情報屋っていうのがまあ、仕事になるのかな。でも俺、自分の情報を掴まれるのはあんまり好きじゃないんだよね。ほらその点、戸籍もない君は掴まれるような情報もないだろう?せいぜい便利に使わせてもらうさ」
「ああ……」

おかあさん、今日から私はなにか街の黒いところに足を突っ込むことになりそうです。
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