…would,

□第四章
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お皿を洗い終わって、私達は池袋に出た。
そっか、よく考えたらここは新宿なんだね、なんて考えながら臨也さんの後をついていく。


通行人は、辺りをきょろきょろ見ながら青年についていく制服姿の高校生を少し不思議そうな目で見ていた。
さすがにずっと制服はきついものがあるなあ、そろそろベタついて気持ちが悪いし。
できる限りしわは伸ばしてきたけれど。

池袋の駅に着いた私達はふらふらとただ歩いている――ように見えた。
少なくとも私はそう感じていた。
ふと前を歩く臨也さんが立ち止まったので不思議そうに見上げると、実に嬉しそうに笑っていた。

――なんか楽しそうだなぁ。

そんな呑気なことを考えて彼の視線を追ってみると。

「凄いね」
「ん、何が?」
「いや、紀田君って、色んな人と話せるんだなあって思って……」
「おだてても何も奢らねえぞ」
「お世辞じゃないよ」

茶金に髪を染めた少年と黒髪の真面目そうな少年。
どちらも私の『知ってる人』だ。

――紀田正臣君と竜ヶ峰帝人君!

「行くよ」
「え……っ?あ」

右手を握られ、二人の所へ引っ張られた。

――この三人の展開は知っている。

つまり、この世界の未来は確かに小説通りであったということだ。
そんなことを思いながら、手を引かれるままに臨也さんについて行く。
二人の少年の背中に、実に爽やかな声で臨也さんは声をかけた。

「やあ」

ああ、正臣君の顔がひきつってる。

「久しぶりだね、紀田正臣君」
「あ……ああ……どうも」

私は臨也さんの一歩後ろでその様子をわざと隠れるようにして見ていたため、二人がこちらに気が付く様子はなかった。

「その制服、来羅学園のだねえ。あそこに入れたんだ。今日入学式?おめでとう」
「え、ええ。おかげさまで」
「俺は何もしてないよ」
「珍しいっすね、池袋にいるなんて……」
「ああ、ちょっと友達に会う予定があってね。ついでに彼女に街を案内しようと思ってたし」

臨也さんはぐん、と繋いだままにしていた手を引いて私を自分の隣に引き寄せた。
初めて私は二人の少年の視線を一身に受ける。

「は……はは、こんにちは」
「……ちわ」

警戒しているような、どこか悲しそうな正臣君の視線が刺さって、私は思わず顔を伏せた。
――二人とは仲良くしたかったのになあ。
――これじゃ帝人君と仲良くするのも難しいかな……?
臨也さんはしゅんとする私を特別気にもせず帝人君に目線を移した。

「そっちの子は?」
「あ、こいつはただの友達です」
「俺は折原臨也。よろしく」
「あ、えっと、竜ヶ峰帝人です」
「エアコンみたいな名前だね」

頭の中で『霧○峰〜♪』なるメロディが流れたのは私だけでないはず。
このセリフを小説で読んだせいであのCMを見るたびに帝人くんの顔が浮かんできてしまうのだ。

「じゃ、そろそろ待ち合わせの時間だから」

そう言うや否や臨也さんは私の右手をなおも引っ張りつつ早足にその場から去っていく。
取り残された二人に軽く会釈をしながら慌てて臨也さんを追った。

「待ち合わせって……」
「行ってからのお楽しみってことで」
「そうですか」

気の無い返事をあえて返すと、いたずら心でそういえばと言葉を続けた。

「そういえば、最近自殺オフ会って流行ってるらしいですよね」
「ああ、そうみたいだね。興味でもあるのかい?」
「そうですね、少し。って言っても自殺願望はこれっぽっちもないんですけど……そうだな、知らない人と心中してなにが良いのかとか、そういった意味では興味がある、ですかね」

これは事実だ。
心中でも恋人や家族や友達との心中なら分からなくもないが、ネットの、しかも掲示板で募集するような極めて関わり合いの少ない人が集まって心中することの意味をいまいち理解できないでいた。
一人で死ぬのが寂しいから心中するのであれば、インスタントに集まったメンバーで死ぬことなど孤独を浮き彫りにするようだし、一人で死ぬ勇気が出ないのであれば死ぬべきではないと思っている。

「心理学的だね。いいと思うよ、ちょっと俺と共通する部分もありそうだ」
「共通、ですか……。でも私は、本当に自殺オフ会に参加するような真似はしないですよ?」
「……どういうこと?」

怪訝そうな顔で聞き返されて、思わず視線を逸らす。

「すみません、例えばの話です」
「……君はもうちょっと嘘をつくのが上手くなった方がいいね。どういうわけかはわからないけど、君のお察しの通りこれからオフ会だよ」

うわあ、バレてる。
どうやらこれから自殺オフ会があるんだってことを知ってることを知られた。
やっぱりよくないね、大人しくしていなきゃ。
怪しい人物だと思われて追い出されたら元も子もない。
……いやまあ、戸籍がない時点で十分すぎるほど怪しくはあるのだけれど。

「しかし困ったな、なんで知ってるの?」
「……なんの話ですか?私はなにも」
「まあいいや、また改めて聞くよ。こういう気持ちも悪くない」

どういう気持ちなのかはよくわからないが、やっぱり自分が今後どのように振舞っていくのかは考えていく必要がありそうだった。
とりあえずは隣の人物はなんだか機嫌が良さそうに見えたので、それでよしとすることにした。



そうこうしているうちにどうやら目的地に着いたようだった。
駅から少し離れたカラオケが見える位置で立ち止まって、臨也さんは携帯を取り出した。

「あと十分くらい待機ね、取り敢えず。まだ一人来てないみたいだから」
「先に入って待っててはだめなんですか?」
「色々あってね、一番通路側にいたいんだよ。だから最後に部屋に入るんだ」

ああ、そういえばそんな描写が小説にもあった。
こうしてメンバーが揃うのを待っていたというわけだったのだ。
……あれ、そういえば。

「もしかして、私も参加……するんですか?」
「今更なにを言ってるんだい?今日はそうだね、これからする仕事の練習とでも考えてくれればいいや。今日のは趣味だけど、通じるところもあるだろうしね。ああ、大丈夫だよ、本当に死ぬ必要はないから」
「……うっかり死んじゃった、とか本当、笑えませんからね」

池袋は夜の帳が下りていく。
私の元の世界よりも遙かに混沌として。
それでも危険な荒んだ空気は変わらないまま。
だんだん、星に負けじとネオンが光りながら。

 
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