…would,

□第九章
1ページ/3ページ


しばらく歩くと建物全体が小さなひび割れやツタに覆われているような状態の古びたアパートが見えてくる。
帝人君はそのアパートを一度見上げると立ち止まって振り返った。

「ええと、僕の部屋はここの一階にありますけど……いい加減説明して下さい。
貴方達は一体何者なんですか?」

帝人君、『貴方達』に私は入ってる?入ってる?

セルティさんはカタカタとPDAを打ったと思うとそれを帝人君の前に出した。

『行方不明になっていた知り合いの娘を見つけたが、何故か逃げてしまった』

帝人君はしばらく沈黙したあと、「本当の事を教えてください」と首を振る。
セルティさんはそっと肩を落とすと、私達に離れるように頼んで帝人君とアパートの裏に回り込んでいった。


「美琴」
「……前から思ってたんですけど、臨也さんいつから私の事呼び捨てにしてました?」
「え、ずっと前からだよ。
美琴はいつまで『臨也さん』なわけ?」
「いつまででもそのつもりでしたが」
「ええ、嫌だなあ。
敬語もそろそろやめたら?
ほら、なんだか威圧感あって恐いじゃない?」
「……わかった」
「うん、そっちの方がいいね」
「臨也さん」
「あ、そこはさん付けのまんまなんだ。
……なんだい?」
「……やっぱいい」


なんかダメかもしれない。
直感とか、そんなものに近いなにかを感じ取れた。
不安とか、幸せとか、そんなもの。

……多分好きになっちゃいそうで怖かったんだと思う。
好きになっちゃいけないって思いながら。
もともとあった小説という隔たりも無くなってしまった今、どうしようというの。

怖かった、不安だった、否定した。

――この世界に未練なんて残しちゃだめだから。

――どちらの世界にも未練があったら動けなくなっちゃうから。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ