…would,
□第十章
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23時という時間を感じさせない雑踏が行き交っているなか、私はそこにいた。
――これから起こる事の、脇役としての登場人物になるために。
流石に制服だと補導対象になるので臨也さんに黒いファーコートを貸してもらい、それを羽織っている状態だ。
ちなみに臨也さんはいつの間にかにどこかに姿を消してしまっていた。
――流石に大きいなあ。
ぶかぶかの袖を気にしつつ、この大通りと交錯する東急ハンズの前で、周りから浮いている二つの存在に意識を向ける。
コートの下にある私が着ている制服と同じデザインのものを着る少年と、ビジネススーツを着た女性。
二人は周囲に剣呑な雰囲気を漂わせる。
「……今更何を言っているの?
その年になって、こんな世界に足を突っ込んで、今更そんなありふれたことしか言えないのなら、その不快な口を閉じなさい!」
「ああ、僕は綺麗事しかしらない。
だけど、それの何が悪いって言うんだ?
人を殺した反省をさせろっていう、今更以前の事も理解できないのは誰ですか?」
「ドラマの見すぎよ。
それも少し古い、お約束の予定調和ばかりなものばかり!
ここを、この街を何処だと思っているの!ここは現実なのよ?
テレビや雑誌の中じゃない、アナタは英雄なんかじゃない、見の程を知りなさい!」
「ああ、綺麗なものを見たいさ、予定調和でいきたいさ。
それの何が悪いって言うんだ。
……現実でそれを目指して何が悪いんだよ!現実だから目指すんだろ!
ああ、こんなのありふれた考えさ。
ありふれた事っていうのは、それだけ皆がその事を考えてるってことなんだよ!」
帝人君は口八丁を重ねる、重ねる。
正直その様子を見てぞくり、とした。
何か違う、けどある意味での本質を見た気がしたから。
そっと自分のポケットに手を入れる帝人君が見えた。
そのまま何か操作をして……大きく息を吸い込み、送信ボタンを押す……。
「下らない問答は終わりね。
仲間がいても関係無いわ、自白材なんていくらでも用意できるもの――」
矢霧波江さんはとても健やかな笑顔で、手を挙げる。
その時私の後でも波江さんの部下と思われる数人の気配が分かった。
そんな中――
波江さん、好きなキャラなんだけどなあとか言ったら場違いだよね……