…would,

□第二章
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学校・放課後


「……わっかんない!」

「いや分かるってマジ簡単だから!
っていうか美琴だって国語10だろ!?」

「漢文嫌い!漢文嫌い!」

放課後私は教室に残って正臣くんに国語を教えてもらっていた。

「や、それにしても正臣くんが国語得意とかすっごい意外だよ」

「まー、能ある鷹は爪を隠すってか?
なに、そんなギャップに美琴は惚れたと。惚れたと!?」

「あははーっと。
あれ、あれって杏里ちゃん?」

「するーっとスルーするなー。
今のどう?どう?……え、杏里?」

二人で様子を伺おうと廊下を覗くと、杏里ちゃんの後ろを追う人影が見えた。

「……那須島」

少し低くなった正臣くんの声に呟く。

「C組の担任?」

「ああ。まさか杏里が次の標的なのか……?
あ、そーだっ」

正臣くんは突然悪戯に笑ってズボンのポケットから携帯を取り出した。
小声で計画を教えてもらい、思わずため息をつく。

――まあ、でもそれが一番いいかあ。

そうして私達はB組の教室で息を潜めた。


「なんだ園原。まだ残っていたのか」
「ッ……」
「なにを驚いてる。
どうした?ん?体調がわるいんだったら保健室に行くか?」
「い、いえ。大丈夫ですから」
「そうか……?」

だんだん那須島先生の声が気持ち悪くなってきた。

「なんだったら、家まで送ってやろうか」
「……アハハハハ」
「冗談だ……はは」

絶対冗談なんかじゃないじゃん。

「なあ、園原ぁ。
お前、最近は他の女子とも仲良くしてるのか?」

少なくとも私は仲良しでいるつもりだ。

「ええ、まあ」

「そうか……?本当か?
この間みたいなことは、もう無いんだろうな?」

「……はい。大丈夫です」

「なあ……園原。
何か困ったことがあったら、何でも相談していいんだぞ。
何かあったら、この前みたいに助けてやるから」

どんだけ恩着せがましいんだ。
ああ、だめだ、ムカついてきた。

「はあ……」

「ほら、教師としてはら生徒の頼りになる存在になりたいんだよ。
その為には、まず先生のことを信頼してくれないとなあ」

因果関係が逆じゃあ。

「俺もたくさんの生徒を見てきたが、園原の事は少し心配なんだよ……。なあ?」

あ、あ、杏里ちゃんの肩に手置いた!
杏里ちゃんに触んなっ!

本当に苛つい飛び出そうとしたが、正臣くんに無言で止められる。

(もう少しだけ待ってくれ、美琴)
(……分かった)

「お前はいつでも元気が無いからな、教師としては心配なんだよ。
お前らの担任の北駒先生は気難しい人だし、B組の佐藤先生は生徒のゴタゴタなんか気付いちゃいないし、D組の――」

「いいこと言ったな」

正臣くんはにやり、と笑って携帯を弄ってから、教室からひょっこりと顔を出した。

「那須島センセー。セクハラっすかぁ?」

「あッ……」

那須島先生の身体が激しく硬直し、その時に肩を強く捕まれた杏里ちゃんは声をあげてしまう。

「わお。いけたいな眼鏡委員長に声まで出させて。いよいよ本格的なセクシャル・ハラスメ ントってやつっすか」

隣で私も姿を現して呟く。


「でもセクシャルだのハラスメントだのわけわかんなくない?」

「ナイス美琴ー。
だからだから、寧ろ判りやすくセクシー・ハラショーっすよねー? ああ、英語とロシア語混在作戦で東西冷戦終結っすかぁー?」

「き、紀田!一橋もだ!ふざけるんじゃあない!」

「やんセンセー大声出さないで?」

「おやおやおやおやおやおや。いけないよねぇ那須島先生ー。

美琴思わないか?
A組のキッチー達ならともかく、俺らのマスターサトチーを引き合いに出すなんて、なー」

「サトチーに言ったらどうなるかねー?」

「……ッ!
冗談……冗談だからな、園原。勘違い して変な噂とか、流さないでくれよ。な 、な?」

「ハハハ!先生、杏里がそんな軽薄な女に見えますか?」

「杏里ちゃんは優しい美少女ですよ?」

「……そ、そうだな」

「寧ろ変な噂は俺らが流すんで安心してください!」

「女子の方は私が責任もって流すから。
センセー任せてねんっ」

「なッ……」

本当にあったまきたから徹底的に潰してやろう、うん。

「紀田!一橋!そういうくだらないことをしている隙があったら――」

「勉強ですか?ふふふ、確かに勉強は大事ですよね。ええそうですともさ! 『将来物理とか数学とか絶対使わねーよ 』なんて事を言いたい世代ど真ん中ですよ俺らは!
でも、物理や数学だって将来によってはしっかり使う事になるわけだから、 まだ将来の決まっていない今のうちは色んな知識や知恵を身につけておくべきだ……。

そうでしょう?ですが先生!俺は将来ヒモで行きていくと、 何処の宗派のか良く解らない女神像に誓っているので物理も数学も取り合えず必要ないと思います。あえて言うなら国語と英語さえあればワ ールドジゴロの完成ですよ?」

「ひ、ヒモって、ねえ!」

思いがけず気力を削ぎとる正臣くん。

「お前……いや……国語の成績絶対悪いだろ」

「くくく……残念ながら国語の成績は10ですよ先生ぇー。

いくら文章問題や論文の成績が良かろう が、 普通の会話には何の影響も無いことが解りますか先生さんよぉー」

「ふざけるな。それが教師に対する態度か?
……というか一橋はどうなんだ?」

「え?ああ、まあ私は……」

「あれれーん?まっさかセンセー知らないんすかぁ?
美琴は評定平均10.0を叩き出した天才美少女ですよ?」

――これでも向こうの世界ではもうちょい上の偏差値の高校行ってたからなあ。

――ある意味すごいズルだ。

「そ、そうだったな……いや、だが」

「で、さっきの映像と音声をバッチリレ コーディングしてあるわけですけど」

「おま……」

「さて。
ヒモになるお勉強として――まずは、裏っぽい駆け引きの仕方を教えて下さいや 。 ねえ、先生?」

「あ、それは私も聞きたいかな。
学校じゃ教えてくれないってやつ?」










 
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