…would,

□第四章
2ページ/3ページ



「すまねえな、静雄に会いに来たんだべ?」

「いえ、皆さん可愛がってくれるんで。
静雄さんに会いに来たっていうのももちろんですけど」

「あーな。
ほら、こんなとこ学生なんざ来ねえから。
ましてや美琴ちゃんみてーな器量良しじゃ、そりゃうちの奴らも構いたくなんだろ」

「あはは、ここ、色んな話聞けて楽しいですよ」

「まあ好きで来てくれんのは良いけどよ。
美琴ちゃんは真っ白な人間だからねえ」

「そうですかね?まあ高校生なんでこれからですよ、なんて」

「まーなあ。
俺らが染めることのないように願いたいね」


そんな話のなか、そっと窓から視線を落とすとちょうど静雄がビルの中に戻ろうとしていた。

なにやら声をかける贄川さん。

「結局あんたは臨也にはめられて――」」」」」」」

――あーあ。
――なんで禁句に気が付かなかったかな、この人。

瞬間、静雄が贄川さんとの距離を詰めて腕を首に絡み付けた。

その勢いで身体を捻って――贄川さんを飛ばしてみせたのだ。

綺麗な型の、ラリアット。
しかしその規模と威力は通常のそれとは段違いだ。

「俺が立ち去ろうとしたのは」

ぞっとするほど静かな声で静雄は言葉を紡いだ。

「あんたがつまんなそうに質問すっから、 ちょっと俺、キれそうになったんだよなあ。
だから、あんたを殺しちまわないように、とっとと場所を後にしてたんだよ」


その顔にうっすらと笑みを浮かべながら贄川さんに歩み寄る。
贄川さんが意識を手放す寸前で襟首をぐっと持ち上げる。

「……誰が寝て言いっつった?」

――かっこいい。

恐怖で身体のあちこちから悲鳴をあげる贄川さんを見ながら、そんなことを思ってしまう。

「俺をわざと怒らせようとしてたんだろ……あぁ? 俺だって馬鹿じゃねえんだ。
そんぐらいは解る。 だけどな。それが解ったからって怒らないわけじゃーあねえんだ……」

襟首を掴まれながらガタガタと身を震わせる贄川さんは叫び声すらをもあげられない。

「挑発にのって怒ったら負け?ああ、負けでいい。負けでいいさ。
負けても俺はなんにも損はしねえからなあ?
それに、俺に勝ったお前をこれから殺すしな……」

そこまで言った瞬間――

「あぁぁああぁぁぁあぁぁあああぁあぁぁあ――――ッ!」

叫びを上げた。

怯えた贄川さんではない。

紛れもない、静雄自身が、だ。

「ああああッ!暴力は嫌いだって言っただろうがぁッ!
あぁ? 俺に暴力を使わせやがって!てめえ何様だ?何様のつもりだ?
神か、神気取りか?ああ?」

そう言い、静雄は贄川さんの襟首を掴んだ状態でまるで野球ボールのように、振りかぶった状態から180゚振り回して前方に彼の身体を投げた。

勢いよく水平に飛んでいく男の身体。
だが次第に重力に負けるようにしてその身体は地面に擦り付けられる。
   ........
「よくすりおろされないなあ」

そんな私の呟きが聞こえたらしく、トムさんが窓際に近付いてきた。

「なに見てんだ?」

「ほら、結局記者さん、静雄怒らせちゃったみたいで」

「マジかよ……あれほど言ったのになあ」

「ですよね……」

トムさんは窓を開けて静雄に声をかけた。

「おーい。静雄」

「……なんすか、トムさん」

「いや、お前がさっき入れてたカップ麺、そろそろ三分経つぞ」

「静雄、カップ麺食べていい?」

「……マジすか、いや待て俺が食う」

「はやくおいでー」

「おう」


静雄は返事と同時に実にあっさりとビルの中に入っていった。







  
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ