…would,
□第八章
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ドアが開く音がしてそちらを振り向くと多数の赤い目と目があった。
「静雄が来たの」
「化け物も一緒だったけど」
「静雄が来たのよ」
「あなたのこと、静雄の前で愛したら」
「静雄もたくさん愛せる気がするの」
「静雄を愛すの」
「愛すわ」
三人が代わる代わる紡ぐ恍惚とした愛の言葉をBGMに私は暗闇の外に連れられるまま出る。
外は既に夜だった。
私は倉庫のようなところに居たらしい。
――もしこのまま池袋南公園に行ったら、静雄の枷になるかもしれない。
――人質なんかいたら、喧嘩なんてできなくなる。
そんなわけにはいかないのだ。
どうやったら逃げられるか必死に模索していたその時。
「……っ!?」
私を引き連れていた三人の罪歌が声もなく倒れた。
呆然としていると背後で声が聞こえる。
「妖刀って名前の癖に子供は本当に素人なんだねえ」
「……臨也?」
なんで、こんなところに。
「助けに来ないんじゃなかったの?」
つい棘が見えかくれしてしまう。
「助けに来た覚えなんかないさ」
「……?」
「ただの軌道修正。別に美琴がどうなったって良かったんだけど、ほら、シズちゃんが怒り狂ったらどうなるかわからないだろう?」
「そっか」
「そ」
だめだな。
助けに来ないんじゃないって、
臨也の思い通りにならなかった事柄を直したらだけだって、
そう聞いて理解してるのに。
なのに、この皮肉に笑う整端な顔を見ると安心する自分がいた。
頭の回転が復帰してくる。
静雄に会わなきゃ。
人質の私は解放されたよって姿を見せなきゃ。
「――じゃあ私静雄のところに行ってくる」
「……なんで?」
「え?だって私が助かったって、静雄に示さなきゃ」
「……だめ」
「なんで?」
「……」
行かなきゃ。
静雄は優しいからきっと心配してくれてる。
だから、大丈夫だって知らせなくちゃ。
それを止める理由は臨也にはないはずなのに。
「臨也?」
「行かないでよ」
「……どうして?」
「だめだから」
「……まだなにか企んでるって言いたいの?」
「……」
「ねえ、言ったよね?
私は臨也の信者じゃないって。だから臨也の言うことは聞かないし臨也の悪巧みは否定するよ。
静雄とも友達だし、セルティさんだって好きだし」
「……」
「だから、臨也の悪巧みがどうなろうと、私は友達の手助けに行きたいし安心させたい。
助けてくれたのが臨也だから申し訳なくはあるんだけど、……私は行くよ」
「違う」
「……違うってなにが」
「俺は……行って欲しくないんだよ。
あんなところに」
「だからその状況を作ったのは、」
「俺だよ。ああ、どうしようもなく俺のせいだ。
……だけど美琴だけは巻き込むつもりなんてなかったんだ」
「……それ聞けてちょっと安心したけど、今関係ないよ。
ねえ、静雄を怒らせるのは嫌なんでしょ?
私が行った方がいいじゃん」
「俺は……美琴を失いたくないって言えばいいかな」
「……」
「もしなにかの事故で美琴が罪歌に乗っ取られたら?
だからこそ俺は絶対に行かせたくない」
それ、信じていいの?
「……ごめん、絶対そんなことならないから。
絶対斬られないようにするから」
私は踵を返して池袋南公園に走っていった。
止める声を無視して。