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□第九章
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静雄は私と水希ちゃんがいる木の根本に立ち、次々に襲いかかる人々を蹴散らしていた。
鬼、という表現は既に当てはまらないだろう。
今の平和島静雄は――正しく鬼神と呼ぶべき強さだった。
いや――そもそも、彼を表現する言葉などいらないのだ。
その強さだけが、言葉以上の言葉となって、世界に己の存在を知らしめているのだから。
その勢いは止まることを知らず、夕方から貯めに貯めた憤りを、全力を出せる喜びに乗せて完全に使いきるかの勢いだった。
百人近い『罪歌』達は、静雄のあまりの強さに一旦後ろに下がり、連携で攻撃を加えようと互いに目配せをしあっていたのだが――
突然、全員の動きが一致した。
公園の中にいた、静雄とセルティさん、そして私を除く全員が――ある方向へと向かって、同時に首を向けたのだ。
しかしそこには公園の出口があるだけで。
「……もしかしてよ……この近くで、なんかあったんじゃねえか?なにかはよく解らないけどよ……」
行動に反して冷静なままの静雄の言葉に、同じことを考えていたのだろう、セルティさんが頷いたのが見える。
「ここは俺がなんとでもすっから、ちょっと見てきたらどうだ?
どっちにしろ、お前いまなんもしてねえだろ。
美琴もよ、セルティに連れてって貰え。ここにいんのは危ねえよ」
「分かった……!」
ああ、やっぱりここには来ない方が良かったかなあ……結局、足手まといになっちゃって。
セルティさんは『影』で一対の手袋を作り出した。
それをPADを差し出しながら静雄にそれを投げ渡すと、布状の『影』で私と水希ちゃんをくるんでそのままバイクの後ろに乗せる。
「……ありがとよ」
「ありがとう、セルティさん」
私は自分とセルティさんの身体の間に、公園の出口を見続ける水希ちゃんを挟んだ。
そのまま私達をのせたバイクは斬り裂き魔を蹴散らしながら公園の外へと向かっていく。
しっかり水希ちゃん越しにセルティさんの身体を抱きしめながら、一瞬そっと後ろを振り返った。
再び動き出した斬り裂き魔達のある気配を感じ取って。
それは、恐怖と不安――即ち、この男を愛しきる自信がない、という気持ちの揺らぎだ。