…would,
□第十二章
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―out said―
「折原臨也って、やっぱりおかしな名前よね……」
「んー。こんな風に育ったのは偶然かもしれないけど、結構自分じゃピッタリだと思ってるよ」
一人将棋をやりながら呟く男の後ろで、波江は忙しなく情報整理を行っている。
それを手伝おうともせずに、臨也はあることを尋ねた。
「ねえ波江さん、君は偶然ってどこまで信じる?」
「……なんの話?」
「彼らは、今回の色々な事が偶然だと思ってるんだろうなあ。
那須島の件にしても、上野水希の件にしても」
「上野水希って誰よ」
「哀れな被害者さ。今回の事件のね。
まあ、そう仕向けたのは俺なんだけど。
なかなか優秀な子だったよ?」
クツクツと笑いながら、臨也は一連の事件に思いを馳せる。
「いやあ……それにしても、『ある』って前提で調べてみると、結構あるもんだね。妖刀とか妖精とかいうもんはさあ」
自分の知らなかった情報が山ほどあった事に快感を覚えながら、罪歌が起こした事件の結末を思い出し、臨也は更なる高揚感に打ち震えた。
「そう……本当に偶然だったのは、那須島が俺の金を盗っていった時、本物の『罪歌』が現れたことかな」
そこまで言って、ああ、と思い出して付け加える。
「まあ、美琴がそこにいたのも偶然だね。
――芳しくない偶然だけど」
それについてはあまり考えたくないようで、一度瞳を閉じて息を吐きだしてから、ゆっくりと瞼を開けた。
そうして今度は那須島の行為を一通り思い出して、改めて臨也は顔を歪ませる。
彼は那須島に、金を持ち逃げようとしたことを粟楠会に告げると脅し、自分の手駒のして鎖を繋げたのだ。
――『罪歌』の大本である、贄川春奈を利用するために。
「だけど、そこに贄川みたいな『コピー』じゃないら本物の『罪歌』の持ち主が現れたじゃないか……おかげで、色々と面白いことになったよ。
まあ、俺としてはシズちゃん死んでくれたら最高だったんだけど、美琴が無事だったんだからそこまで高望みはしないさ」
「あら、美琴ちゃんもこの前の事件に関わったって聞いたけど」
「あれは本当に事故だったんだよ。
贄川春奈は美琴のことは知らなかったわけだから、美琴を連れ出したのは『罪歌』の判断だったのは間違いない。
シズちゃんを狙うのは願ったり叶ったりだけど、それはダメだよねえ……」
「……よく分からないけど、あんまりあの子を巻き込まないでくれない?」
「なんで波江さんがそんな事気にする必要があるのさ。
もう遅いよ……言ったろう?色々面白いことになってるって」
「あの子は私にとってもなかなか貴重な存在だもの。
……面白いことって?」
臨也は怪訝そうに「ふうん?」と呟くと、なんの感情も見せずにたんたんと言葉を紡ぐ波江に楽しそうに状況を語りだした。
まるで――内緒話を我慢できなかった子どものように、目を爛々と輝かせながら。
「これで街は、ダラーズと黄巾賊、そして、園原杏里が統べる妖刀軍団の三つに分かれたわけだ。
……しかも、妖刀組は、ダラーズにも黄巾賊にもそれぞれ潜入しているときた。
――美琴もそこに密接に関わってるんだよ。
友情、なんていう鎖でね」
「ふーん。それって、凄い事なの?」
「今すぐには凄い事にはならないだろうが……今は、火種で充分だよ。
何ヶ月かすれば、その火種がくすぶってくすぶって……ああ、俺はもう待ちきれないよ⁉︎」
「……でも、黄巾賊って数はいるけど、3年前に中学生のガキが作ったチームなんでしょ?
バランスが悪すぎるんじゃない?」
「いいや……逆に考えなよ。
ガキのくせして、あれだけの人数をまとめてるってのが――既に脅威なんだよ!」
臨也はそう力強く告げた後、それに続く言葉は、まるで独り言のように呟いた。
「だからこそ、もう遅いんだよ……黄巾賊の『将軍』とも、俺は知らない仲じゃないしねえ……」