…would,

□第十二章
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―out said―


携帯のメールで廃工場に向かった『将軍』と呼ばれる紀田正臣が、黄色の群衆を囲い自らも黄色いバンダナを巻いて、静かに決意を固めている時――

臨也はなおも、秘書の冷たい瞳を気にせずに話を続けていた。

「まあ、こうやって盤面を上から見てるとさ、自分が神様だっていう錯覚に陥ってなかなか気持ちいいもんだよ」

三角形の将棋盤を色々といじりながら、臨也は子どものように無邪気な笑顔を浮かべ続けた。

「神様アターック。えいや」

気の抜けた掛け声とともにオイルライターをぶちまけ、その油にまみれた三方向に広がる王将をそれぞれ中央に寄せ集めた。

「三つ巴っていいね。しかも、それぞれのリーダーが密接にくっついてる。
蜜月が濃ければ濃いほど、それが崩れた時の絶望は高く高く燃え上がるもんだよ」

「そうだね」

「……ッ⁉︎
なんだ、美琴。帰ってたの」

「ただいま」

美琴は笑顔を顔に貼り付けて、ソファに座りながら振り返る臨也を見つめた。

「その三つの王将を、どうするつもり?」

「……どうって、こうさ」

臨也は盤上にマッチを投げ込んだ。

炎。

透き通るように青い、どこか冷たい印象を与える炎が、三角形の盤上を包み込む。
火は勢い良く燃え上がり、オイルの尽きるそばから駒がブスブスと焦げ始めた。ガラス製のテーブルの上で、木製の駒だけが徐々に姿を燃え朽ちさせる。

「見ろ、駒がゴミのようだ!」

「……」

狂ったように笑う臨也。
何も言わないまま笑顔を消す美琴。

そんな二人に冷や水を浴びせかけるように、波江は炎を見もしないままで呟いた。

「そりゃ燃えたらなんだってゴミよ。片付けといてね」

「ちッ。
つまんない女だよねえ、相変わらずさあ」

つまらなそうに首を振る臨也を無視して、波江はそっと美琴に近づいた。
そして、美琴にだけ聞こえる声で呟く。

「こんな駒はゴミよ。人間じゃない。
だからあいつの馬鹿みたいな遊びはほっとけばいいのよ」

「……」

「あいつは多分、周りは燃やしてもあなただけは残すつもりなのよ。
それがどれだけ残酷なことだとしてもね」

「それじゃ、意味ないんです」

「そうね……」

楽しげにトランプを弄る臨也のうしろ姿を見ながら、二人は会話を続ける。

「誠二が巻き込まれなきゃ、私はいいんだけど……それにしてもあなたは心配だわ、少し」

「……ありがとうございます」

美琴はただ、悲しげに笑って見せた。
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