…would,

□第四章
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来良学園 校門付近



いつものように四人で下校している中、今までの会話を締めくくるように正臣君が声をあげた。

「つまり、俺は思うわけだ」

校舎全体を包み込む夕陽の中――とても真剣な顔をして。

「杏里はなんでそんなにエロ可愛いのかって」

その言葉を聞いていた男女は、躊躇う事無くいつもどおりの反応を返す。
眼鏡の女子は困ったように頬を赤らめながら、

「え……ええ?」

と口ごもり、大人しそうな男子はあきれ顔で首を左右に振った。

「エロはない……エロはないよ正臣」

少年の言葉に、茶髪にピアスという外見の正臣君はしてやったりと笑い――

「なるほど……つまりエロはともかく、可愛いのは帝人も認めるわけだ!」
「なっ……い、いや、それは……」
「ほほう、ならば杏里は可愛くない、とでも?」
「いやっ、それはっ!か、可愛いけどさ!」

二人のやり取りの間で、少女はますます顔を赤く染めていく。
――でも何故か、少しこちらを見て悲しそうな顔をした。

「そうか……可愛いのは認めるか点だが、
俺はそれにもましてエロいという観点から見ても杏里は超いけてると踏んでいる。
つまり、俺はお前よりもエロの分杏里を深く理解し、愛しているわけだ!
よってこの勝負、俺の勝ちだな」
「何その俺様判定!?」

文句を言う幼馴染み――竜ヶ峰帝人君を横目に見ながら、正臣君は二人の間でおろおろしている眼鏡少女――園原杏里ちゃんに向き直る。

「ま、なんにせよ、杏里の怪我が無事に完治してよかったよ」
「うん、それは本当にね!」
「あ、あの……ありがとう、二人とも……」

二人の親友に微笑みかけられ、杏里ちゃんはオドオドしながらも精一杯の笑顔を浮かべてみせた。

竜ヶ峰帝人

紀田正臣

園原杏里

一橋美琴



私達四人は、来良学園の中でも周囲に強く「仲が良い」という印象を残している四人組だ。

カップルならばA組の矢霧誠二と張間美香の二人の熱さが有名だけど、この四人は実に平和的な四角関係として学園内に広く知られており、気の良い友人達の間では杏里と美琴のどちらがどちらとくっつくか賭けをしている人もいる。

竜ヶ峰帝人君は大人しそうな印象の少年で、生まれたままの黒髪に、ピアス等のアクセサリーも見につけず、私服校の来良学園で律儀に制服を纏い続けている。
彼とは対照的に、紀田正臣君は鮮やかに染め上げられた茶髪の間からいくつものピアスを覗かせて、
私服の袖から覗く手には銀製のブレスレットと指輪が輝いている。

そんな二人の間に挟まれる杏里ちゃんは、どちらかというと帝人よりの印象を与える人間だと思う。
帝人をさらに地味にした感じの眼鏡少女で、図書室が良く似合うといった感じの優等生風の出で立ちに身を包んでいる。

――あれ。
――なんで私こんなに客観的なんだろう。

本当は理由なんか分かっていた。
三人が誰も、こちらを向かない。
目が合わない。

三人に共通点はほとんどなさそうだけど、各々の表情に浮かぶ笑顔から、傍目にも気の許せる友人同士なのだろうと想像できたし、実際その通りなんだ。

昨日までは四人、だった。
今日は朝から、三人とも変だよ。



「よし、杏里がエロ可愛さを他の女と比べて証明するために、今日は三人でナンパにいこう!」
「なにその理屈!?」
「えっ……な、ナンパって……」
「大丈夫、杏里は言わば
『女の子もいるからついていっても大丈夫だろう』と安心させるための罠だから何もしなくてもOKだ!」

まだ肌寒さの残る風の中、彼らはお互いに温かい空気を作りだしている。

周囲を歩く生徒達も皆似たような雰囲気の会話に興じており、
学校という空間を周囲の街とは違った独特の空気に包み込んでいた。

だからこそ、寒い。
私は一人、寒いんだ。

そう思うといてもたってもいられなくなって、私は静かに歩く速度を早めて三人を抜かし校門を出た。

「美琴」
「美琴さん」
「美琴さん!」

三人の声が重なるが、すぐに三人とも声を呑むように喉を鳴らした。

「……ごめんね、私多分なにかしちゃったんだよね。
なんか、三人を怒らせるようなこと」
「違う!」

そう声を張り上げたのは正臣君だった。

「違う……違うんだ。本当、美琴はなんも悪くないから……ごめん」
「……美琴さん」

今度は杏里ちゃんが近づいて来た。

「あの、聞きたいことがあるんです……」

そこで二人の携帯が同時に鳴った。
二人とも慌てて携帯を開くや否や、奇妙な顔で止まってしまった。

「……杏里ちゃん?正臣君?」

杏里ちゃんなんか泣きそうに笑ってるし、正臣君はなんだか怒ってるし。
それでも、二人はなんでもなかったように私に背を向けると、ずっと下を向いていた帝人君のところに戻って行ってしまった。

そうして今度こそ、私は一人で帰路を辿った。
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