…would,

□第九章
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『なるほど……話は解ったよ』

セルティさんはノートパソコンにゆっくりと文字を打ち込んでいく。

『じゃあ、いつも一緒にいる……帝人も、その正臣君って子も――杏里ちゃんの正体は知らないんだね。
……ちょっと待て、美琴ちゃんは?』
「私は教えてもらって、知ってます」
『ああ、そうなんだ。ならまあ、とにかく何とかして抗争を止める方法から考えよう。大丈夫、今話してる間にも、ちょっと考えがまとまりかけたから』

その文字列を見た杏里ちゃんは少し安堵の色を見せた。
と、なにか引っかかったらしく、躊躇いがちにではあるがセルティさんに尋ねかける。

「あの……竜ヶ峰君のこと……知ってるんですか?」
『え。あー。……あのさ、一応聞くけど。竜ヶ峰帝人君のこと、どこまで知ってるの?』

パソコンは杏里ちゃんに解いながら、セルティさんは私に問うように身体を向けた。
それに応えるようにそっと首を振って見せる。
杏里ちゃんは私たちには気がつかずに、戸惑いながらにゆっくり答え始めた。

「竜ヶ峰君は、いい友達です……。紀田君と同じくらい大事で……。一緒にクラス委員をやってるんですけど、私、こんなに普通の友達が出来たのって久しぶりで……それで……」

私の顔を見て、杏里ちゃんの答えを聞いてふんふん、と頷いた新羅さんはしみじみ声をあげた。

「不思議なもんだよね。毎日のように一緒にいるって話なのに……。
いや、だからこそ、かな。近くて大事に思ってるからこそ、肝心なことを隠してるのかもね……。まあ、それも自然なことさ。俺だってセルティには何年も隠し事をしてたし。あ、今はもうしてないよ」
『解ってるよ』
「ええと、あの、私、なにかまずいことを言いましたでしょうか」
「ううん、大丈夫だよ」

不安げに尋ねる杏里ちゃんにそう声を掛けると、セルティさんも手を左右に振りながら言葉を紡ぐ。

『そうだね。もう少ししたら直ぐ全部知ることになるから、大丈夫』
「は、はあ」

解っていなさそうな杏里ちゃんの返事を聞くと、セルティさんはヘルメットを手に取り、ロボットを組み立てるような動作で自分の首へと押し付けた。
どうやらどこかに出かける準備をしているようで、ヘルメットを私たちに向けて、文章を再び打ち出した。

『とにかく心配しないで。上手くいけば、今日中に全部丸く収まるから。ちょっと知り合いを連れてくるから、少しの間だけここで待ってて』
「は、はい……すいません、もう2日以上もお邪魔してしまって……」
『気にしないで、無駄に広いマンションなんだし』

そこまで書くと、今度は私にだけ画面を見せた。

『私は、帝人を連れてくるから杏里ちゃんをよろしくね。とりあえず二人を会わせないことにはしょうがないと思う』
「……解りました。でも」

私はきっと、杏里ちゃんを止めることはしないだろう。

「……運命には、逆らえないと思うんです」
『美琴ちゃんがなにを含んで言ってるのか解らないけど……友達の三人がそれぞれこんなことになっちゃってて大変だと思う。それに更に美琴ちゃんがなにか秘密を抱えてるなら……言えとは言わないけど、いつでも相談に乗るから』

そこまで書くと新羅さんへと向き直り言葉を掛け合った。
苦笑する新羅さんにPADを見せ終えたセルティさんは踵を返して勢い良く部屋の玄関から出て行った。

「あ、新羅さん。すっかり忘れてたんだけど、私奥の部屋にも用があるんだった。行ってもいいかな?」
「あー。そっか、まだ起きないか。いいよ、いってらっしゃい」

キョトンとした杏里ちゃんに「安心して大丈夫だから」とだけ声を掛けると、私は静雄が眠る部屋へと向かった。
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