…would,

□第十二章
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美琴side


「一橋さん⁉︎」
「帝人くん!」

歩いていると後ろから聞き覚えがある声が掛かった。
振り返るとやっぱり帝人くんで、彼は心配そうに続ける。

「今日はどうしたの?終業式だったのに……」
「いや、あはは……疲れちゃって。
昼に目が覚めた感じなんだよね、ずっと寝てて大寝坊だよ」
「そっか……って、そうだ!正臣!
ねえ一橋さん、正臣が自主退学しちゃったんだよ。
家に行ってももう居なくてさ、今まで探してたんだ」
「ああ……」
「一橋さん?何か知ってるの⁉︎」
「あ、えっと……うん」

今帝人くんに会ったのは偶然のようで偶然ではない。
帝人くんのアパートを尋ねようと思っていた所だったから。
理由は、杏里ちゃんと正臣くんに話した私の存在ってものを、説明したかったからだった。

「知ってるけど……教えられない」
「そんな……」
「でも、その代わりに聞いて欲しい話があるの」
「え……?」

首を傾げたものの、何かを察してくれた帝人くんは自分のアパートに私を上げてくれた。








「なんだか……懐かしいな、ここ」

臨也とセルティさんと一年ほど前に来たことを思い出して呟くと、決まりが悪そうに帝人くんが目を逸らす。

「そうだね。
ああ、あの時は僕……泣いちゃって、その、忘れて欲しいんだけど……」
「その後が凄すぎて覚えてないよ。今言われて思い出したけどね」
「ええ……!」

ますます弱りきった表情をしてみせる帝人くんに少し笑ってしまうが、改めて話を切り出した。

口を開き、また長い話を少しずつ紡ぎながら思う。

何度目だろうか、このおとぎ話のような出来事を説明するのは。
臨也に話し、次に静雄に話して。
そして杏里ちゃん、正臣くん、……帝人くんだ。

みんな、真剣に聞いてくれる。
それが本当に救いだった。

そんな風に思いながら、口は動き続けて大体を話し終える。
話をまとめながら帝人くんの方を見やると、予想以上の眼力を一身に受けた。

「そんな……感じなんだけど。えっと、帝人くん?」
「……凄いや」

それだけ呟くとなお、瞳を子供のように煌めかせて私を見るのだ。

「おーい、みかどくーん……」
「その、一橋さんの世界っていうのはどういうところなの?
ここの世界とどう違うの?一橋さんの世界から見たここが小説の世界なら、ここから見た一橋さんの世界ってどんな世界なのかな?」
「えっとねえ……」

なんだか好奇心を激しく突ついてしまったらしい。
これも『非日常』への渇望ってやつですか?

「私の世界……って言うと物凄く語弊があるけど……は普通のところだよ。ここよりもずっとね。
池袋にはセルティさんみたいな黒バイクも静雄みたいな喧嘩人形って呼ばれちゃうような人もいなければ露西亜寿司も無いし、新宿を根城とするおかしな情報屋さんだっていないんだから。
最後の質問については、そんなの知るかーってことで」
「うーん……そうなんだ。
じゃあ、その、この世界が舞台の小説ってさ、どんな内容なの?」
「ええー?それって……」
「ああ、将来とかは聞かないよ!
ただ……そうだなあ、主人公は誰なの?」
「なるほど……誰だと思う?」

悪戯に尋ねると、んー……と頭を抱え始める。

「……僕の知ってる人?」
「知ってるねえ」
「……静雄さん、とか」

確かに静雄が主人公でも小説を作れそうだと考えたことはある。

「ぶっぶー。違います」
「じゃあ……門田さん、とか」
「おお、確かに良さそう……でも違います」
「ええ……」

それではここで少しおちょくってみようかと存じます。

「帝人くん」
「なに?」
「主人公」
「うん」
「帝人くん」
「うん……えっ⁉︎」

すんごい惚けた顔をされてしまいました。

「……僕が……主人公なんかで、物語が成り立つ……の?」
「そりゃあ成り立つでしょう。
曲がりなりにも『創始者』なんだから!」
「そりゃあ、そうだけどさ……どんな話?」
「えっとね、帝人くんがダラーズを使って悪の組織に立ち向かい池袋に平和をもたらす物がた……り……あの」

中盤で帝人くんが『ナンパをしている正臣くんを見るような冷たい視線』でこちらを見ていることに気が付いた。

「嘘だよね」
「√3点でしたねごめんなさい」
「√2点」
「一夜一夜に人見頃!(注※√2=1.41421356...)」
「じゃあ√3点にするから人並みに奢ってね?(注2※√3=1.7320508....)」
「心からごめんなさい」

畳の上で土下座を試みる中、帝人くんがため息をつきながら呟いた。

「もう、変な期待させないでよね」
「あれ、でも向こうの世界でもう一人の主人公って呼ばれてるのは帝人くんなんだよ。ここ重要」
「嘘⁉︎」
「本当。まあ真・主人公はちゃんといるわけだけど……さて誰でしょう?」
「じゃあ……正臣とか園原さんとか……」
「んー、違うなあ。ヒント、真っ黒です」
「……臨也さん」

確かに真っ黒でした。

「惜しい……多分。ヒント2、バイクに乗っています」
「……セルティさん⁉︎」
「正解っ!」






こんな感じで帝人くんとの会話は弾んでいった。
こっちと、むこうと、世界なんてもののことがこんなに楽しく話せるのが嬉しくて、ついついたくさん喋ってしまっていたんだ。
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