来神学園の平和。
□一つ目の非日常
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今日から高校二年になった私は昇降口で配布されたクラス名簿を見ながら教室の前で立ち止まってそっとため息をついた。
「……また同じ」
「なにが『また同じ』?」
唐突に後ろから私の肩越しににゅう、と顔が出てきた。
その黒い頭をぐりぐりと押し戻しながら再度ため息をつく。
「つくづく腐れ縁だよね、折原君とはさ」
「運命とは言ってくれないんだ、寂しいな」
「思ってもみないことを口に出すのはやめた方がいいよ」
折原臨也とは去年どころか中学も三年間同じクラスだった。
いつも人とは極力関わらずに図書室に籠ってるくせしてなんやかんや私に絡んでくるのだ。
「っていうかいつから後ろにいたの?」
「すぐ後ろにいつ来たのかってこと?
それなら美琴さんが立ち止まってすぐ。
校門の前で見かけたから、そこからずっと後ろを歩いてはいたんだけどね」
「声かけてよ!」
「そんなのつまんないだろ?
美琴さんを含めて周りの人間の、主にクラス名簿を貰った時の反応を見たいんだからさ。
でも美琴さん、俺の教室の前で立ち止まってるからさ、それなのにその後ろで立ち止まって見てるのも目立つじゃないか」
「あのねえ……」
まだ学校に来てから十数分も経ってないのにも関わらず、私は本日三度目のため息をつくことになる。
気を取り直して教室の中に脚を踏み入れると声がかかった。
「やあ、臨也に……美琴ちゃんじゃないか!」
そう言いながら嬉しそうに近付いて来るのは、これも同じ中学校だった岸谷新羅。
「おはよ、岸谷君」
「ああ、新羅じゃないか」
ちなみに中学校の時一橋という苗字が学年で四人(!)もいたので、同じ中学だった人からはたいてい名前で呼ばれていた。
校内に響くチャイムと同時に自分の席に滑り込むと担任が入ってくる。
生徒から『たけやん』の渾名で親しまれている武田太一先生独身二十六歳(以後たけやん)。
たけやんは辺りをぐるりと見渡すと自己紹介をし始めた。
馬鹿話半分の自己紹介に呆れながら耳を傾けていると、たけやんは唐突にパンと掌を叩いた。
「忘れてた忘れてた!
9時から始業式だ、うわごめんみんな急いで体育館な!
体育館履きと貴重品持ってけよ本当ダッシュで来て俺が怒られる。
そして俺は今日司会だったやべえ!」
などという言葉と共に廊下を全力疾走する数学教師たけやん二十六歳。
教室から苦笑が漏れたあと、たけやんの期待に応えて私たちは全力で体育館に向かった。