来神学園の平和。
□二人は。
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ようやく新しい生活にも慣れてきた私は、放課後図書室で本をなんとなくめくっていた。
グランドを使う部活が帰りのミーティングを始めた時間に、グランドでは先程まで響いていた青春真っ盛りな声とは雰囲気が違うような殺伐とした声を耳にする。
「いーざーやーくん、よお?
なんでいちいちいちいち俺に構うんだぁ?」
「ゴキブリを殺すのに理由なんているかな?」
グランドにいるのは折原君と――金髪の少年。
どういう風の悪戯か、こちらにまで声が聞こえてくる。
「こそこそ逃げやがってよおー、ゴキブリは手前だろうが」
「やだなあ、シズちゃん。
俺は人間だよ?
あんたみたいな怪物とは一緒にしないで欲しいんだよねえ。
あはは、ごめん。
シズちゃんはゴキブリじゃなくて怪物だったね」
「ああ、そうかよ……
つまり手前は、死にてえんだよなーあ?」
「はは、まさか」
折原君は投げられた野球ボールを間一髪で避けておどけるように肩をすくめてみせる。
「俺はまだまだ生きたいに決まってるじゃないか。
この世界には見たいものがたくさんあるんだよ。
うん、やっぱり一番、いやこの世界で唯一興味があるのは人間だ。
俺は人間が好きなんだよ。
だから俺はそれを見届け続けるために生きてなきゃいけないのさ」
「ごちゃごちゃうるせえんだよ!」
また派手な喧嘩を……
高校一年の、途中から時々見かけるようになった殺し合いのような喧嘩。
それは岸谷君に言わせると二年になって特に頻度が上がっているらしい。
――それにしてもあれだな。
――遠くから見てるとなにかのパフォーマンスみたい。
想像を絶する怪力で手当たり次第モノを投げる金髪の少年と、次々に自分に向かって襲いかかるモノを綺麗にかわす黒髪の少年。
――まあパフォーマンスじゃないからこそ笑えないんだよね。
「……気になるのか?」
「ふえ?」
後ろから声をかけられて馬鹿みたいな声を出してしまった私は顔を赤くしながら後ろを振り返った。
――誰?
「金髪の方とはクラスメイトなんだが……その、いいやつだぞ、あいつは」
「そうなの?
っていうか、あの」
どうやら戸惑いが全面に表れていたらしい。
その少年は鼻の脇を掻きながら眉を下げた。
「ああ、すまん。
俺は――門田京平ってんだ。
お前も、二年だよな?何度か見かけたことがある」
そうやって笑うと精悍な顔が幾分可愛らしく見える。
そう思って少し顔を綻ばせてしまった。
「私は一橋美琴っていうんだ。
――本、好きなの?」
左手に文庫本を何冊か持っていることに気がついて尋ねると、なんだかばつの悪そうな顔で視線を外してしまった。
「まあ……
似合わないって言われるけどな」
「いやでもさ、本が好きイコール真面目とか清楚とか言われても困るよねえ」
「お前も好きなのか、本とか……」
ちょっと目を見張る彼を見て思わず吹き出してしまう。
「門田君の方がよっぽど『見えない』って言い出しそうだよ」
「え……あ、ああ、悪ぃな」
「いや、実際ケータイ小説とかラノベとかしか読まないけどねー?」
「それだって小説だろ」
「そうだね」
窓の外の喧嘩する二人を見下ろしながら、図書室の二人は和やかに時を刻んでいく。