来神学園の平和。

□二人は。
2ページ/2ページ


ふと、私の読んでいる本に門田君が目を落とした。

「……え、そんなこと言って読んでるのは医学書ってお前」

「あはは、そいやそーだった」

「医者にでもなる気なのか?」

「いやあ?面白いから眺めてるだけ」

私は生命が好きだった。
いや……私は神秘というものが好きだったのだ。

生命の神秘でもいい。
宇宙の神秘でもいい。
古代の神秘でもいい。

そこに追求できるなにかがあるのであれば、私はどこまででも追求してやると思う。

そんな話をすると、門田君が思い付いたように言葉を投げ掛けた。


「じゃあユーマとかはどうなんだ?」
「本当にユーマがいるんだったら凄い興味ある」
「妖精とかは?」
「それもいるんだったら」
「都市伝説は?」
「あるんだったら」
「信じるのか?」
「半々かなあ」



そんな話を、二人がしていたのは偶然。

しかし池袋には11年程前から密かに有名になっている都市伝説が存在する。

『黒バイク』などと呼ばれている漆黒のライダー。



二人の間にもそれは話題に上がる。

「あ、黒バイクは見たことあるから信じるよ」

「俺も二回くらいだがあるな。
興味はあるのか?」

「すっごく。
でもね、私なんかが近付いていい存在なのかなって思うんだ。
もしかしたら私達が考えてることがお見通しだったり!
なんかそうやって、違う風に世の中を見てる気がするんだ」








しかしその予想に反して、都市伝説は実に人間らしくその世の中を渡っていた。



「セルティ、セルティセルティセルティ!
ただいま、僕が帰ってきたよ?
あれ、いないの?なんてことだ、これはまさしく……」

玄関先で嘆いているのは岸谷新羅。
その後ろに黒い手が伸びてとんとん、とその肩を叩いた。

「ああっ、出掛けていたんだねセルティ。
君を探して俺は一人東奔西走走り回るところだったよ?」

ヘルメットを被った影は、大きく肩を落として見せるとぐいぐいと彼の背中を押した。

「うああ、うん分かってるよセルティ?
取り合えず内に戻れってことだよね。
君はいつだって塗抹詩書かのごとく――子供みたいに俺を扱うんだから。
それにしても持ち運びのパソコンか何かが欲しいところだよね。
私はセルティと以心伝心だし、古今東西いつでも言いたいことは理解できるけど、筆談だと仕事に支障がでるだろ?」

言いながら靴を脱げ捨て、部屋に入る。
黒い影はそこにあるパソコンの前に立って小気味のいい音と共に画面に文字を並べた。

【お前が子供であることは間違いないだろう。
……パソコンを持ち運べないか、私も考えていたところだ】

「僕はこれでも高校生だしセルティと愛を語るにはそろそろ過不足ない年齢だと思うんだけどな。
俺が働くようになったらセルティにノートパソコンを買って渡すからね」

【高校生なら青春の一つでもしてみろ。
あとそれに関しては新羅に迷惑はかけられない】

「私はセルティと出会った時から毎日が青春さ。
迷惑なんてあり得ない!
俺がセルティの為に働くなんてまさに福徳円満だからね」





来神学園の一日。


二人は喧嘩する。
二人は会話する。
二人は愛を流す。





六人は交錯する。



 
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ