来神学園の平和。
□三角と、
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平和島くんが買ったロールケーキは家に持って帰るつもりだったらしいけれど、結局一緒に店で食べることになった。
……とは言っても特に話すこともなく、黙々と自分のケーキを食べていただけなんだけど。
でも……なんだか居心地が良かった。
「平和島くんって甘いの好きなんだね」
「悪いかよ」
「全然。珈琲とか飲まないの?」
その言葉に平和島くんは睨むように悪戯な目で笑いかけて一言。
「うるせえな、ほっとけ」
それだけが交わした会話。
そうして、両方が食べ終わった頃どちらが声をかけるでもなく立ち上がり帰り道を辿った。
平和なのんびりした日だったなあ今日は、となんとなく一日を振り返ったと同時に――
..................
のんびりどころではないことが起こった。
「あれえ?シズちゃんじゃない」
清々しい程に澄んだその声は、何処までも皮肉な笑い声で私達の鼓膜を震わせた。
それに私の隣を歩いていた人が色濃く反応したのが分かる。
「臨也くんよぉ、その呼び名は止めろっつったよなーあ?」
「やだなあシズちゃん。
そんな怖い顔してると美琴さんに嫌われちゃうよ?
ああまあ、シズちゃんみたいな怪物はそんな心配もいらないのかもね」
「手前……ッ!」
「っていうか二人が知り合いだったなんて初耳だよ?
なにまさか恋人とか言わないよね、美琴さん?」
これは完全に私に向けた台詞で流石にげんなりした。
こんな雰囲気のなか巻き込んでほしくないのになあ。
「折原くんが知る必要ないでしょ、っていうか知りたきゃ調べろ。自分で。いつもみたいに」
「あはは、美琴さんが怒ってる。
うんじゃあそうさせてもらうけど、そう言うあたりまあ違うんだろうねえ?
……っていう幼馴染みの会話くらい邪魔しなくていいと思うんだけど?シズちゃんはさ」
「そうかよぉ、なんでもいいが取りあえず俺の前から消え去れ……臨也ぁぁ!」
――中学一年からの仲で幼馴染みは言い過ぎだと思うんだけど。
何処から持ってきたのか街灯を握り締めて仁王のように立つ平和島くん。
――街灯を握り締めた?
「……え?」
「ほんっと、馬鹿力だけはあるんだから。
ほら、美琴さんこういう格言知ってる?」
「そんなこと、言ってる場合じゃ……、」
どうしていいかも解らずに呆けている私を横目に、折原くんは踵を返してすれ違い様にぽんと私の肩を叩きながら、
「逃げるが勝ち、ってね」
それだけ言って楽しげに笑いながら走り去っていった。
「手前ッ、待ちやがれ!」
怒鳴る平和島くんもまた、彼を追いかけるようにして見えなくなる。
――ああ、やっぱりあのグランドにいた子であってたんだ、平和島くんって。
なんだかおかしくて、一人残された私はそっと笑った。