「リンドウの花を君に」IF編

□狂気という名の愛の果て
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《if設定:もしアイラがヒルメスと一緒に行動していたら》
・「愛と狂気の狭間で」と同設定(本編とは無関係)。

※閲覧注意。シリーズの中でもより暗めでシリアス。短め話かつ、ぬるめですが一応R-18。


* * *


 孤独で不安な夜は、そのぬくもりを求めてしまう。
 けれどその手に触れられるたび、罪悪感が募っていくのだ。
 ああ、この人は多くの同胞を殺したのだ、と。
 あの気骨ながらも優しかったバフリーズ老も、無垢なパルスの民さえも、この人の手で殺められたのだ。
 それなのに、この人から離れられなくて。
 想いを忘れることができなくて。
 浅ましくも求めてしまう自分が許せなくて。
 そうして幾度も、夜が来るたび、身を滅ぼす熱に犯されるのだ。
 この身を自ら差し出して、身を焦がすほどの奈落へと堕ちていく。

 燭台に灯された淡い蝋燭の炎が心許なく揺れている。
 その灯りが届くのは広い部屋の中のごくわずかだ。
 それでも情けなく酷い面をしているだろう自分の顔を照らすには十分な明るさなのだろうと、アイラは混濁する意識の中で思った。
 身を滅ぼすほどの熱と、己を見失うほどの快楽。
 男から与えられるそれらすべてが、罪の証に思える。
 そしてそれを受け止め、受け入れる自分も同罪なのだと知っている。
 濡れた視界に映る赤い光に照らされたヒルメスの鋭利な瞳が射るような眼光を向けてくる。
 仮面は遠の昔に外され、乱れた前髪が顔にかかり影をつくり出す。
 たったそれだけで目の前にいる男が別人に見えた。
「何を考えている」
 感情を押し殺した低い声がアイラの耳朶を震わせる。痛いくらいに最奥を突かれ、激しく体を揺さぶられながら、アイラはぼんやりと目の前のヒルメスを見返した。
「壊してほしいか」
 いっそ、本当にそうしてくれたならどんなに楽だろうと思う。正体を失ってしまえば罪の意識に苦しむことも、怯えることもない。
 そして何より、目の前の男を想う気持ちも忘れてしまうことができる。
 身を焦がすほどの狂おしいこの想いを、これ以上心の内に隠しておくことはできそうにないとアイラは思った。
「もう・・・っ、・・・やめ、て・・・! ぃ、や・・・あ、ぁ!!」
「何を今更」
「けど、・・・ぁ、ひゃ、あ、・・・こわ、ぃ・・・っ!」
 口では否定してもヒルメスに抱かれることに喜びを覚える自分が恐ろしい。ヒルメスのそばにいると他の大切なものを見失ってしまうような気がするからだ。
 彼しか見えなくなる。彼だけを想ってしまう。
 そう考える自分が何よりも恐ろしい。
「恐がるな。それでいい、お前は俺以外のことを考えるな」
 幼子のようにしゃくり上げて泣きながら声を震わせるアイラに、ヒルメスは暗い瞳を向ける。
 早く堕ちてくればいい。愛しい体を好き勝手に蹂躙し、熱を分け与えながらヒルメスは思った。
「ぁ、ああ、っ!」
 自分の下で身悶える細い体に叩きつけるように自身を穿つ。その衝撃に目を見開いて背を仰け反らせるアイラを腕の中に閉じ込めて、逃がさないように何度も何度も最奥を犯し尽くせば、唇を噛み締めたアイラは耐えられないとばかり頭を振る。
「ひぃ、ぁああっ!!!」
「お前のすべてを俺に捧げろ」
 嬌声というよりももはや悲鳴に近い、あられもない声にヒルメスは愉悦を覚えた。薄ら寒い心が熱く滾るのを感じる。愛しい体を支配し、自分だけのものなのだと思うことが、ヒルメスにとって何よりの幸福だった。
「善悪に揺れるお前の心を壊してやろう。穢れないその体を犯し尽くしてやろう。俺以外のものにうつつを抜かさぬよう、お前の全てを俺が奪い尽くしてやる」
 なんて恐ろしい言葉なのだろうかとアイラは思う。けれども恐ろしいはずのその言葉は甘美な誘惑だとも感じられた。
 愛しい、愛してる。この人が、狂おしいほどに愛しくてたまらないのだ。
「――っ、あぁ!!」
「アイラ」
 名を呼ばれるたび、理性が崩れて心が陥落していく。身を焦がすほどのこの切なさを、愛おしさを抗うことなどできるはずもなかった。
「ヒルメス、さまっ――、ぁあ、――っ、愛して、います・・・っ! 貴方、様を、っぁあ、心から――!!!」
 最後には自らから求め乞うていた。
 体の最奥に溢れんばかりの熱が注ぎ込まれる。痛いくらいに抱きしめられる感覚に心が満たされていく。
「俺もだ、アイラ。お前だけを、永久に―――」
 暗転する意識の中で、共に堕ちろと、愛しい人は囁いた。

 足元を崩されるように、沼に引きずり込まれるように、堕とされていく。
 二度と抜け出せない奈落の闇に。


狂気という名の愛の果て



【あとがき】
 久々の更新なので少し文体がおかしいです。すみません。追々修正していきます。
 言い訳させてください。私はこんな話を書くつもりじゃなかったんだー!!(笑)
 なんか最早ほの暗いレベルを越していよいよ狂気じみて来ました・・・
 二人には幸せになってほしいのに、幸せな話が書けないです。
 幸せな話を期待されている方に申し訳なさでいっぱいです。がっかりさせてしまいましたらごめんなさいm(_ _)m
 ですが、ヒルメスと夢主の話ではいつも「他の何を犠牲にしても、互いを想い合っている」という一点でぶれないような話を書いているつもりです。強く互いを想い合う二人の気持ちの行く先が、何通りもあるだろうと思っています。
 筆者のつたない文体でそれがどこまで伝わっているかは痛いところですが・・・。
 ここまでお読みいただきありがとうございました。次作も楽しみにして頂ければ嬉しいです。


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