「リンドウの花を君に」IF編

□幸せの先に望むもの
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《もしもヒルメスが銀仮面卿にならなかったら》
・R-15程度。夢主がヒルメスの寝顔に煽られる話。


* * *


 朝食の準備を整え終わって一息ついたアイラは、そう言えば、と頬に手を当てた。
 いつもは決まった時間ぴったりに起き出してくるヒルメスが、時間を過ぎても起きて来ない。寝室の方に耳を傾けてみても、何の物音も聞こえない。
 珍しい、と首を傾げたアイラが寝室へと向かえば、案の定、天井から下がる薄布に遮られた寝台の上に目を閉じたままの夫の姿を見つける。
 音を立てないようにそっと寝台に近づいて、眠るヒルメスの腰辺りにそっと腰を下ろす。それでもヒルメスが起きる様子はない。
 アイラは寝台の上に手をついてヒルメスの顔をのぞき込んだ。
 ヒルメスはいかにも王子らしく目鼻立ちがすっきりと整った端正な顔立ちをしている。顔の右半分には火傷の痕が残っているものの、そんなことは気にならないくらい、アイラには魅力的な顔に思えた。
 ヒルメスの深い色味の瞳に見つめられると胸が高鳴る。落ち着いた低い声も、たくましい体も。ヒルメスの何もかもが愛おしくてたまらない。
 しばらくの間、眠る夫をじっと観察していたアイラは、誘われるように無防備に晒された唇に自分のそれをそっと重ね合わせた。軽い音を立ててすぐに離れる。
 夫の顔を鼻が触れ合うほど間近に見つめて、アイラは頬を緩ませた。
「お疲れさま・・・ゆっくり休んでね」
 日中忙しくしている夫を労わるように囁いて上体を起こしたアイラは、そのまま寝室を出ようと腰を上げかけたが、その途中で動きを止める。
 中途半端な体制と止まったままの自分の腰に、いつの間にか腕が回されているのに気づき、驚いて振り返れば、寝ていたはずのヒルメスが目を開けてこちらを見ている。
 ヒルメスは横になったまま、片腕を伸ばして細腰をつかまえると、そのまま自らの方に勢いよく引き寄せた。
 突然のことでバランスを崩したアイラは当然寝台に倒れ込む。ヒルメスはアイラの体を自分の上に乗せるように移動させてから、逃がさないと言わんばかりにかっちりと抱きしめ直した。
 目を白黒させているアイラの様子を喉の奥で笑ったヒルメスは、先ほどの仕返しだと言わんばかりにその唇を奪い取る。触れるだけの優しい口づけから、舌を絡め合わせるものにかわりかけて、焦ったようにアイラが体を退かせた。
「ちょっと、朝から何するの!」
「それはこちらの台詞だな、アイラ。寝ていた俺を襲ったのはお前だろう?」
 にやりと効果音がつきそうな笑みを浮かべて言うヒルメスに、アイラは気まずげに視線をさまよわせる。
「だって、その」
「だって? なんだ? はっきり言ってみろ」
「・・・・・・っ」
 狡い。自分の気持ちなんて絶対分かっているはずなのに、わざわざ言わせようとするなんて。
「ん?」
「貴方が・・・」
「俺がどうした?」
「貴方が、あまりにもかっこよくて・・・だからその、つい、」
「襲いたくなったか」
 林檎に負けないくらい顔を赤らめたアイラはあまりの恥ずかしさにヒルメスの上から体を退かそうとした。
 しかしヒルメスの方が一枚上手で、そうすることを見越していたかのようにアイラの腕を掴んで、より自分の方へと引き寄せる。
 体が密着した状態でアイラの背筋を意図を持って撫で上げれば、アイラはぴくりと肩を震わせて無意識に息を飲んだ。
「さて、どうしてくれようか」
「な、何が・・・」
「寝ている俺を襲うなんて真似をしたんだ。お仕置きは必要だろう?」
「嘘よ、最初から起きていたんでしょう。それなのに、寝たふりなんかして」
 よくよく考えれば気配に聡いヒルメスが、こんなに近寄って起きないはずがない。自分は騙されていたのだと、今になってようやくアイラは気がついた。
「だが、俺を襲ったことに変わりはないな」
「襲ってない!」
「襲っただろう。あんな誘うような口づけをしておいて、その気がないとは言わせん」
 もう一度、ヒルメスの手がアイラの背筋を往復する。その手は首筋をたどって前へと回ると引き寄せられた時に着崩れてしまったのだろう、服の隙間から見える白い素肌をなぞった。
 途端に体が泡立つように熱くなる。それでも素直にそれを快感だと認めるのははしたなく思えて、アイラはぐっと奥歯を噛み締めた。
 朝が明けて間もない時刻から不謹慎だと、アイラはわずかに残された理性の中で思う。
 けれどもそんなことは知らないとばかりに、ヒルメスの悪戯な手はアイラの体を堂々とまさぐっている。
「ヒルメス、やめ・・・っ」
「やめていいのか? お前の体は悦んでいるようだが」
「ちが、ぅ・・・」
 いつもは見上げているヒルメスの顔を今は見下ろしている。夫の上に乗せられて、その手で体を触られて、反応してしまっている自分が恥ずかしい。
 おまけにまだ朝だという背徳感に、アイラは頬を染めながらも必死に首を横に振った。
「素直になれ、アイラ。俺が欲しいなら、そう口ではっきり言え」
 意地が悪い。この状況で夫だけが余裕そうな顔をしているのが悔しくて、アイラはきゅっと口をつぐんだ。猫のように体かがめ、夜着の隙間から見える鍛え上げられた胸に唇を這わせる。
 恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったが、ヒルメスばかりに好き勝手させたくないとアイラは意地になっていた。
 ヒルメスは自分から滅多に触れてこないアイラの積極的な様子に一瞬手を止めたものの、すぐに興味深げな顔をして、いかにも意地悪そうに笑った。
「ほう、珍しいな。お前から誘ってくるなど滅多にない」
 貴方がそうするように仕向けたのでしょう、とアイラは心の中で言い返す。
 けれどもそれを口にする余裕は今のアイラにはない。熱に火照った体を持て余して、早くどうにかして欲しいと願わずにはいられない。
「どうしてほしい? アイラ」
 この期に及んでまだ言うのかと、ヒルメスの首筋に口づけながらアイラはぐっと息をこらした。
 憎たらしくて、余裕そうな声が気に食わなくて、それなのに、目の前の体が欲しくて堪らなかった。抱きしめて、口付けて、いっぱい愛してほしいと思ってしまう。
 ごくり、とアイラは喉を鳴らした。
 おもむろに顔を上げたアイラは、上気した頬と潤んだ瞳を隠そうともせずに、ヒルメスに向かい合う。
「ヒルメス・・・」
「何だ?」
 愛しい人にじっと見つめられるだけで、その手に触れられるだけで、体が熱くなる。浅ましくもその先の快楽を求めてしまう。
「抱いて、ほし・・・、んっ」
 言葉尻を飲み込まれるように荒々しく唇を塞がれた。思うままに貪ってゆっくりと開放すると、ヒルメスはふっと満足げに口角を上げる。
 その艶っぽい仕草にも胸が高鳴った。
 ヒルメスの指がアイラの顎を捉える。
「思う存分、俺を味わえ」


幸せの先に望むもの



【あとがき】
 衝動的に書いてしまいました・・・。最後まではちょっと、うん。やめました。
 朝のイチャイチャ話を書きたかったので・・・。
 この手のことはヒルメスが一枚も二枚もうわてだと思います。
 夢主は基本的恥ずかしがり屋だけど、たまにヒルメスの色気にやられているといい(笑)  
 最近、ヒルメスが無駄に甘くなりすぎてる気がします。ちょっと狂気的なのも書こうかな・・・。


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